Others | ナノ






 半ばくたびれた綿布の感触が頬に心地良く。予定もない平和で怠惰な昼下がり、意識が蕩けるまま午睡に勤しんでいたはずが、何だか夢見が悪くなって、軽くうなされながら目覚めたらそこが悪夢だった。



 瞳がぼんやり世界に焦点をあてだしたと思ったら、誰か(とにかく他人だってことは明白な野郎)の姿が思いもかけない程近くに写り込み、俺は静かに混乱する。だってここ何年も自分は独り暮らしで、ついさっきまで自室で寝こけていたはずで、だからここには自分以外の人間がいるはずもなくて。空き巣に出くわしたか強盗に入られたか、どっちにしろパニックにもなる。
 それとも。もう一つの可能性に思い至ってひやりと背筋が冷える。
 拉致か。
 拉致なのか。
 残念ながら、身に覚えがないとは言い切れない。

 目覚めて数秒か数十秒か、徐々に意識が明晰に冴えてくる。後ろ手に縛られていたり口に布突っ込まれてたり、淡々とした嫌すぎる事実がどんどん情報として脳に認識されていく。一度洗濯しただけでくたびれた安物のシーツ、塗装の剥げたパイプベッド、ヤニでくすんだ壁紙、視界にある色んな物が、確かに今自分は馴染みの自室にいるということを教えてくれる。
 けれど、そこまでしかない。把握できる情報はそこまでしかない。状況把握そのものはいまだに困難極まりなく、パニックからは抜け出せそうにない。

 何せ犯罪者(とりあえずそう呼ぶしかない)が要求していることが判然としない。体の上をなぞっていく手の動きは持ち物を探るにしては妙だった。既に拘束は済んでいるのに、不必要なまでに慎重に体の線をなぞっていく。確認に必要な最低限の接触とは程遠い、執拗なまでに緩やかに這う大きなてのひら──

 嫌な予感に冷や汗が滲み、手がぬるつくのが分かる。命の危機、もしかしたらそれ以上の何かを叫びたてるように、頭の中でずっと警鐘が鳴っている。冷や汗が、動悸が、止まない。



「ン……目、覚めたね」

 人を見かけで判断するなとは幼い頃に叩き込まれたけれど、心までをその境地に至らせることはできなかった。(だって納得がいかなかった。差別はいけない、決め付けはダメだって綺麗事を並べ立てて、でも世間は偏見で満ちている。顔で学歴で社会的身分で金で、人は簡単に人を推し量るじゃないか)

 とにかく、そいつの第一印象を、俺はとても端的に表せる。若々しい顔にあまりに不似合いな真っ白い頭髪。正しく異端。ヒトにあるまじき配色をした、異端の生き物だった。その総白髪が能面じみた無表情を貼り付けて俺を拘束している。

 わけのわからない状況なんて初めてじゃないのに、日常の香りしかない自室での異常事態に恐怖心ばかりがやたらと煽られる。

──誰だよ。何が目的だ。

 何もかもが理解の範疇外、それでも少しでも自分が置かれている状況を理解しようと、情報を得ようと目まぐるしく脳を回転させる。空回り気味の思考が成果を上げる前に、無表情がおもむろに衣服をしかも局部から剥ぎ始めたから、そこで漸く我を取り戻せた。体に神経が通っていることを、たった今思い出したかのようにもがく。
 自分の意志で動いたことで、伸し掛かられている現実をはっきり把握できた。ばたつかせた脚はあっさりと押さえ込まれ、埃をたたせた程度で終わる。体を捻って逃れようとしたら、途端に情け容赦なく急所を握り込む手に、ぎょっとして思わず相手の目を見た。もしかしたら安心させるためだったのかあるいは文句なしの恫喝なのか知らないが、ここで微笑まれても純粋に恐怖しか覚えない。

「駄目。諦めなよ」

 いや、何を?

 思うようにいった試しなんてなくて、正直理不尽の連続で。諦めたところがかなりある人生でも、犯罪者に喰い物にされるのを諦観持って受け入れられる程投げてない。
 と、その口から予想だにしない単語が零れたものだから、思わず硬直する。聞き違えようもなく、俺の名前だった。


「何の連絡も言伝もなしにいなくなるから。随分探したんですよ」

「何カ月になるかな? 急に、姿をくらまして」

「……俺が、本気で探して、見つけられないなんてね」

ねえ、カイジさん。


 帝愛じゃない。そんなわけない。じゃあこれは何だ? ついこの間まで家畜よろしく繋がれていた俺の居所を探したとかいうこいつは、なら、それなら……?


 言葉の意味が、理解できると同時に、どっと脂汗が溢れた。

 どうしてこの時立ち上がって力の限り暴れなかったのか、足掻かなかったのか、なりふり構わず周囲に助けを求めなかったのか。ほんの数時間後に死ぬほど悔やむなんて思わなかった。要求されたのは金品でも命でもなかった。自分が正気を失っているか相手がとち狂っているか、間もなく後者だと確信することになる。そうした判断はできたのに、ほとんど恐慌状態で暴れても大した攻撃にならないと、考えれば分かるそれが考えられない程の混乱の極みに達していた。
 何を諦めろって。冷静に考えれば足が縛られていない状況から事態は察しがついたはずだ。強盗の方が、よっぽどマシだった。諦めろと言われたのは命でもましてや金品でもなかったし、行われたのは人格をすり潰す行為だった。








「……、ぅぐっ、!」

 呼吸が苦しい。全力疾走した後でもこんなに喉がひりついた記憶はない。それなのに閉じきれない口の端からは涎が溢れて、その屈辱感で目の裏が熱く焼ける。

 部屋、というか周囲が異様に静かなせいで下肢から聞きたくもない粘着質な音がまた跳ねた。ここは俺の部屋で、俺は平和に昼寝をしていただけで、だから思いきり気を抜いたシャツとスウェットの楽な格好で、不釣り合いなその状況が逆に非現実的だった。不気味な程真っ白な頭が、下半身に埋まって何やら不穏なことをやらかしている。見たくないのに目はそこに行ってしまう。視覚の暴力でしかないが、何をされているのか把握できないのも恐怖でしかない。視線を遣った途端に鋭い双眸とかち合う。反射的に逸らしたら、くぐもった笑い声が追いかけてきた。俺はさぞかし無様な面を晒してるんだろう。
 野郎の手でぐにぐに揉まれておっ勃てる変態的な趣味はなくても粘膜に包まれたらもうどうしようもなくあっさり陥落して、今はひたすらに出したくてたまらない。気を緩めれば腰が揺れた。腿がぶるぶる震えている。膨れた幹を舌先でなぞられてまた涎が垂れた。唸る。堪えようとしたら喉が鳴った。

 緩やかに舐めて擦って吸って中途半端になぶるばかりで決定的な刺激は貰えない辛さに事態の異常さを忘れてただ焦れた。爪先を丸めて悶えながらひたすら耐える。一瞬だかもうちょっとか、意識が飛んでいたかもしれない。ひやりとした違和感に気付いたのは遅く、ぐちょぐちょ音を立てて擦り上げられて背中が勝手に反り返る。ジェル越しに感じるてのひらはでかくて熱くて気持ち悪いのに与えられる悦楽には抗えず、くぐもった悲鳴を零して手の動きに合わせ浅ましく腰をすり寄せ振りたくる。
 頭のどっかではとんでもない事態に発狂しそうになっているのに、それすら冷静に分析する自分もどこかにいて、そして即物的な分身はとにかくイきたくてたまらないと訴える。全身がバラバラに千切れ吹っ飛んでいきそうな切迫感。膨れ上がってもう少しで絶頂が見えるって時にいきなり途中で放り出されて、自分が物欲しげな目をした自覚は確かにあった。

「……ん……あぁ、ぅっ」

 色々なものにまみれたぬるついた指が俄には信じられない場所を這い出して毛が逆立つ思いをする。実際あちこちにざっと鳥肌が立った。
 いつの間にか下は何もかもを剥がされて脚を大きく開かされていて、こんな頭のおかしい真似を仕出かした男は観察でもするようにゆっくり狭間をなぜている。異物でしかない他人の指が、あんまり自然にぬうと入ってきたから呆然とした。そうでなくとも弄られ続けて抜けた腰とガクガクの脚にまともな抵抗は無理な話で、意識も理性もぼやけてしまえば熱くぬるついた粘膜を弄られ感知できるのは快感でしかなかった。





 体が反射で震える度に抱え込まれた脚が覆い被さる背中を叩く。内側からは指で付け根を、外側からは口で性器を、刺激され続けてどれくらいになるのか、もう自分では判断がつかない。別の生き物のように素知らぬ顔をしてそそり立つ雄はピクピク跳ねて汁を零してその微かな感触にまた悶えた。射精感が高まれば擦り上げる手はあっさり引いて、永遠に続くのかってくらい何度もそうやってタイミングを外された。軽く地獄だ。
 わけの分からないこの状況も、同じ雄に脚開かされてる現実も、それで元気に起立させた挙げ句にだらしなく喘いでる今も全部が滑稽でいっそ笑える。ああ、呼吸が限界に来て酸素がきっと足りてないんだ。

 口に満ちる湿った繊維は不快で、喉も体も涙が滲む目玉も何もかもが熱っぽい。情けないと唾棄する自分は頭のどこかにいるものの、喉を擦り合わせる度に漏れる嗚咽は止まらなかった。

「ぁぐっ……んんぅっ、」

 ほんの一時休められていたてのひらが、再度根元を柔らかく揉み始める。口内に丸ごと含まれた先っぽはぐずぐずに濡れていて、熱い舌で穴を抉られるとアレだけでなく体のあちこちが別の生き物みたいにびくびく痙攣を繰り返す。そのまま張り出した形を確かめるように這い回って所構わず吸い上げられて、抱えられた腰を無意識に振っていた。
 出したい、出したい今出さなきゃ気が狂う。
 変態強姦魔の口でも何でもいいから穴に突っ込んで擦ってとにかく解放されたかった。

 人の腹に入り込んで内側を好き勝手蠢いていた指が増やされたんだろう、ピリピリと痺れる痛みを寄越してきて、そのおかげで何とか気を逸らして自分を保っていられる。なくした方が楽なのかもしれないが。
 深くまで突っ込まれた指は内壁から性器の根元を探るようにぐねぐねと奥を突いてくる。吐き気と同時に不可思議な感覚が湧き上がって鳥肌が治まらない。

「……いい? カイジさん」

 かかった吐息に可哀想な分身が震えた。言葉が落とされたことだけは分かって、中味までは理解が追い付かない状態で首と目を動かす。人の股間からやっと顔を上げた野郎の面はどうしようもなく欲情していて、あからさまに己に向けられたそれに怖気が走った。喰い散らかされる予感、災厄が我が身に降りかかることがありありと理解できるのに。冷えた精神と加熱させられた肉体との間が断絶されているようなこのもどかしさに歯噛みする。さんざっぱらお預けを喰らわされて焼き切れそうな神経は目の前で火花を散らしている。光景が正しく目に映っているのかも自信がなかった。だから愉悦に歪んだ男の面が綺麗に笑ったように見えたのは、きっと何かの間違いだ。

「……ンン! ……あ! ……っんぁあ゛ぁぁ!」

 脚の間はどこもかしこもぬるついて、太腿を掴んできた手も滑っていた。だからなのかやたらと食い込む指の痛みに、淀んでいた意識がふっと浮き上がる。空気が動いて外気に晒された性器に冷ややかさを感じたのも束の間で、遠慮なしに重ねられた体に挟まれぬろりと滑った。息は文字通り虫のそれで、負担を強いられた腕も肩も軋むような鈍痛に痺れて、今にも意識を飛ばせそうに朦朧としていたのが、差し込んできた鋭利な痛みで全部が一気に吹っ飛んだ。





 ベッドに押し付けたこめかみからどくどくと鼓動の間隔が響く。息を吸って吐くただそれだけのために全身を使った。それなりに死線をくぐり、肉体的にも精神的にも痛みに耐え切っただなんて、そんな自負は目の前の暴力に対して何の慰めにもならない。泣き喚きたくなる。実際自分はみっともなく泣きじゃくりながら、がむしゃらに暴れていた。

 明らかに負っただろう裂傷がさらに広がるのも構わず闇雲に振り回した脚は物凄い力で押さえ付けられて、足首を掴んだ手はそのまま俺の体を思いきりよく二つ折りに畳む。おかげで痛みは加速度的に酷くなった。腰を打ち付ける毎に奥を拓かれる感触に耐えきれず、唯一自由になる首を振って必死で息を継いだ。そうしたらえずいて、危うくうっかり本当に死ぬところだった。

「……!」

「…………ぁがっ! あぁ、はぁっ、あああ、」

 気付いた男が口内の異物を引きずり出して擲った刹那、腹に肉棒をぶっ刺されたことも忘れて咳き込み二重に苦しむ羽目になる。腹に力が入って食い締める都度体内を食い荒らされるような衝撃がぶり返してぼろぼろ涙が溢れた。
 何で、何だって、俺は、俺だけがこんな目に!

 罵詈雑言をひたすら吐くのにまともに言葉にならないのがまた悔しい。突っ込まれたのが口だったら先っぽ食い千切るくらいの報復は出来たろうにとそこまで考えて自分にも襲い来る精神的ダメージにぶるりと震えた。
 思い付く限りの罵り言葉を投げつけ、久しぶりに思うさまになる呼吸に集中して酸素を補給する。多少は楽になる気がした。密着した他人の体に構っている余裕はない。そのまま永久にじっとしていて欲しかったがそんなわけもないしそれはそれで大いに困る。喉を反らし、乾ききった粘膜の痛みにも打ち合わず、ひたすらに呼吸を貪った。途端不意に落ちてきた雫に反射で目を瞑る。すぐさま大きなてのひらが乱暴な手付きで貼り付いた前髪をかきあげて、汗に濡れた皮膚を熱い舌がなぞっていく。ぐっと近付いた荒々しい呼気に顔を灼かれる思いがした。

 折り畳まれた体に思いきり体重を掛けられて、固定され続けた腕がそろそろ壊れそうだ。驚くのは粘膜の適応力で、あれだけ圧迫された箇所は次第に押し込まれた質量に馴染んで痛みを忘れようとしている。それどころか。
 額を撫ぜた舌先は今は執拗に耳を弄って、「止めろ」と唸ったら腰を使われて強制的に黙らされた。ぐりぐり内側を掻き回されて感じたのが突っ込まれた衝撃でぶっ飛んだはずの射精感ってどういうことだろう。

「はァ、ああぁっ! ……ぁ、あ、!」

 緩く抜き差しを繰り返しながら、男の指はしっとりとあちこちが濡れた股座を探り腫れ上がったものに巻き付く。過敏な先端を痛むくらいに擦られて鼻にかかった呻きが漏れた。内側を異物が行き来する刺激に正体不明の何やら叫び出したくなる衝動が背を這い上がり、何を思う間もなく自分は溜まりきった熱をぶちまけていた。










「ぁっ、ん! あ、あぁ、アッ、ぁっ」

 気が付けば規則正しいピストン運動に揺すぶられる体は、先端から汁をまき散らして悶えていた。オーガズムを長く薄く引き延ばしたものを永続的に与えられた気分。小刻みの絶頂が下半身をぐずぐずに溶かしている。時間の感覚はとうの昔になくしていたが、今が日が随分傾いた頃だと光の具合で何となく分かった。初めは潰されるように正面から伸し掛かられていたのが、今は距離を開けて背後から串刺しにされている。見下ろしてくる視線の熱をはっきりと背に感じた。自分ではもう頭はおろか片腕すら持ち上げられる気がしない。引き摺り倒されるがまま、転がされて尻だけを抱え込まれ嬲られる現状に涙だけでなくいろんなものが込み上げる。
 額をシーツに押し付けて薄く目を開けばぼんやりした視界でも惨状が分かっていよいよ情けなくなった。散った精液と垂れたよく分からないゼリー状のもの。あと汗とか涎とか。一枚しかないシーツ。ところどころ擦り切れてるけど肌触りは気に入っていた……

 頭のどこか冷静な部分で余計なことを考えるのを止められない。他人事と思いたいのか、脳が、狂うのを防ごうとしているのか。

「ぃあ、あっあっ! いや、だぁっ」

 体は着々と悦楽に順応して、背後から刺される度に圧迫感に泣いて肉が引いていくその感触に喘いで、窓を閉めていないのに散々喚き叫んだ声は隣どころか向こう三軒まで響いたんじゃなかろうか。引っ越すしかない。悲痛な心情を余所に、は、と悦に入った吐息混じりの声が降る。

「気持ち、いい」

「ひ! っ、」

 背中にぴったりと体温が張り付く。耳に吹き込まれた息のせいで低音で紡がれた言葉が伝わるのにはかなりのタイムラグがあった。裸に剥かれた肋の辺りを撫でる手付きがあまりにみだりがましく、悪寒か快感か判別し難いものが脊髄を駆け体が反り返る。重なったおかげでより深く入り込んだモノはぬぐぬぐと内側を抉ったままで、動きに合わせて勝手に腰が揺れる。丁寧にしゃぶられ擦られていた前は今は放置され、塗りたくられたジェルとダラダラ垂れる先走りで乾く間もなく汚れている。
 堪らなくなってはシーツに擦り付けて達しようと何度も体を下ろそうとしたのに、どこまでも手前勝手なレイプ魔に腰骨をがっちり抱え込まれ叶わない。

 排泄を無理やり先延ばしにされるような気持ち悪さと拓かれた奥を擦られる熱さと苦しい呼吸に、系統立てた思考は不可能だ。自分のペースで擦り上げて吐き出してしまいたい。思うままに下半身の解放が許されれば、まともな考えがまとまるはずだと、延々揺すぶられながらぼんやり思う。この状況を脱するための、何か、突破口とかが……

 ふとスピードを緩められて、ゆったりと肉棒と一緒に押し込まれるぬめった襞の感触に背骨を駆け上がる得体の知れない何か。かと思えば殊更のんびりと腰が引かれる悦楽に体中がぶるぶる震える中、脚を抱えられて腰を支えられて何かと身構える暇もなく体勢がぐるんと変わる。質量を失ってつぼんだはずが間髪入れず再度押し込まれて、擦れる熱さと苦痛に叫ぶ。

「っ! ああああァっ」

「カイジさん……どう? 馴れて、きた?」

「あはぁ、あ、あ、あっ、」

 抜き差しを止めて捏ね回すようぐりぐりと押し付けてくる動きに喉から声が押し出された。ビクビクと機械的に体が跳ねる。ああそうだこれは酩酊に近い。ぼうっと意識が乖離して体が自分のものじゃないようなふわふわと離れそうな、この。

「あーっ、あァ、」

 白痴じゃあるまいになんて一個外側から冷静に自分を見る自分は幽体離脱でもしているのか、肉体の方は与えられる途方もない快楽にただ感じ入る。

「ねえ……ここ、前立腺があって」

「あぁ、ぁ、はァあ!」

「胡桃くらいの、臓器なんだってさ」


 何やら言いながら、ぐ、と張り出した笠で内部を擦られひいひい泣いた。強烈な癖にぼけたような曖昧な刺激がもどかしい。

「ね、イイでしょう、」

 掲げさせた脚を腕に絡めてゆらゆらと腰を揺らす男にわけもわからず動きを合わせていた。頭の中で何かが爆ぜる感覚に遅れて精が吹き出すのを他人ごとのようにぼうっと見る。漏らした様に近い射精はだらだらと続き、その間も腰を打ち付けてくる野郎のせいで辺りに飛び散ったそれを掃除することを考えて、冷静な部分の俺は酷く憂鬱になった。

 体の方は擦れ合う肉と肉の感触によがり狂って腰もアレも勝手に跳ね回るのに。初めてもたらされた悦に体がオーバーヒートする。ぐいぐい奥を刺してくる圧迫感が膨れ上がって、痛みと快楽も倍増して、色んなものが頂点に達して、ああ死んだな、とそれだけを最後に思った。










 去勢された雄はこんな気分なんだろう、目覚めて知覚した体に枯れ果てたのか涙すら出ない。精神的な去勢だ、何時だか知らないが電気も点けない薄暗い中で暗い思考に浸る。どうやら内側を抉った塊は俺の体を一部作り替えてしまったらしい。

 無体を強いられた局部の痛みと、ずきずきと鼓動に合わせて差し込んでくる頭痛。全身にずっしりと鉛を押し込まれたような倦怠。指先まで詰まった疲労感に、腕を解かれていてももう抵抗する気力がなかった。血が通っているのかも怪しいくらい感覚が遠い。

「……っぁ、ぅ」

 ぬるついた指が奥で蠢いている。
 器用な指先がしこりを挟んで揺らす動きに足指がぴくぴく震えた。

「……あぁ、……あっ、はあっ、あぁぁっ、」

 牝に作り替えられた。愛撫を待ち望むようにひくつくそこかしこに緩やかに絶望が這い上ってくる。触れてくる長い手指がおぞましい蜘蛛のそれに思えても、意思を無視して体の一部は確かにそれを悦んでいる。ぴたりと重なった体は満足げに笑う気配を伝えた。










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