Others | ナノ

 どこぞの世界には、
「民は生かさず殺さずよぉん」
 という為政者の言葉が伝えられているらしいのです……至言だと思いましたね、ええ。


 リナさんはおいしい。
 あ。
 正確に言うと、彼女の周りには常にいざこざが生まれるから僕にとって栄養補給の安定供給に繋がる点が、おいしい。です。おやつ程度ではあるものの、小さいなりに確実な幸せというやつ。

 高い魔力もポイントながら、彼女が激情家であることも幸いでした。些細なことで泣いたり怒ったり竜破斬をぶちかましたり、負の波動を実に豊かに発散させる……ビジネスで初めて接した頃は、与えられた仕事に少なからぬ不満を抱えていた僕も、認識を改めずにはいられなかった。たかがヒト、から、お手軽携帯食料、味はそこそこ、ちょっと癖になる。くらいには。

 反面、リナさんの食事中はあまり近付かないようにしていました。言うまでもなく、彼女が空腹を満たす多幸感に触れたくないからです。職務上そうも言っていられない場合も多々あって、そんな時は後から少し荒れたりもしました。
 お連れの方々と罵り合いつつナイフとフォークで小競り合うのも見慣れた光景でしたけど、真剣に食物を奪い合いながら仲間とじゃれあうリナさんからは狩りを楽しむような高揚感さえ感じられて、つまりはそれも穏やかで幸せな日常風景なのです、彼女の中で。

 たまに、料理を満載したテーブルがリナさんに恨みを抱く輩だのなんだのの襲撃によって粉砕された時なんかは、別行動してたって駆けつけましたねえ。尋常じゃない怒りが空気をピシピシ言わせて、そりゃもう極上でした。

 そんなリナさんでしたから、目下のビジネスと関係ない状態になったら****みようかとも思いました。虫の脚をもぐように、鳥の羽根を毟るように、じりじりと彼女の周りにいるものを順番に削いでいったら、最後には至福の美味を味わえるんじゃないかって。

 でもそしたらそこで終わりでしょ。
 不世出の面白いモノ、人として不相応な程僕たちに影響を与えた興味深い観察対象、そこそこおいしい便利な携帯食料、なくなっちゃうでしょ。

 一発で終わる究極の美味か、ちょこちょこ楽しめるチープなお味か、僕は欲を張って両方とろうとしているんです。ちょこちょこ、楽しめるだけ楽しんで、そんでちょっとそこらへんを駆け抜ける程の短い命が終わる前に、最上の美味を頂こうと思ってるんです。

 僕らが瞬く程度のちょっと先に、僕が楽しみにしている、これはヒミツの話。










×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -