空気がとろりと重くて、影が長く伸びるから夕暮れだろう。随分と目つきの鋭い野良猫に会った。
こちらを探るように見るそいつに手を伸ばしていたのは半ば無意識だ。目線を合わせてゆっくり差し出した指先を、猫は確かめるようにすんすんと嗅ぐ。柔らかくて少ししっとりした鼻が触れ、頭突きをするような形で鼻面や額を押し当ててくるから、嬉しくなって首の下を掻いてやるとぐるぐると喉を鳴らした。
どうやら許しを得たようだから、手のひらを滑らせてあちこちを撫でた。今までどこにいたのか耳も背中も随分冷えている。自分の体温を移してやりたくて引き寄せたところで、それが腕の中に収まるような大きさでないことに気付いた。
猫ではなくて虎だ。
気付いたところで夢は破れた。
「クソガキ。わしはおめぇの行火じゃねえぞ」
「…………ちがわい」
どこで油を売っていたのか気ままな夜の散歩から帰った己の妖だ。単純にあたためてやりたかっただけだが説明するのも億劫で眠たくて、うしおはひんやりした鬣の巻きついた四肢で朱金の体を引き寄せた。