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 いつ時代の人間なのやらいまいち掴めない姿を気取って歩いているが、この店主にはレトロなものがよく似合う。
 ただでさえ読めない表情の上半分は帽子にもう半分は広げた扇子の内側へ。作務衣の上下、手にはステッキ、羽織の裾を風に泳がせ下駄を鳴らしてへらりと笑う。室内でも脱帽しないせいで滅多に見られない翳るようにくすんだ髪色も、妙に郷愁をそそる色合いに思えこの時ばかりは胸を切なくした。


 時代から隔絶された独特の雰囲気を醸し出す薄汚れた壁紙や土間へ、ポン菓子やラムネに紙縒の籤引きが影を細長く伸ばしている。駄菓子屋の上がり框に座って、帳場で何やら書付をしている浦原と夕暮れに薄暗く染まる店内を見るともなしに見ていた。グライダーや凧キット。紙風船と折り紙。綾取り用の太い毛糸。おはじき。シャボン玉セット。リリアン編み器。



「なぁ」

「はい」

「浦原さん、」

「何でしょう」

 途切れた問いかけにも顔を上げることなく、浦原は少年の様子を窺った。買い物でも相談でもなく、ただ近くに来たから立ち寄ったという風情そのままで何をするでもなく薄闇の店内を見回すグレーの制服姿。今日は魅力的なタイムセールがあるとのことで「ご家族様一点限り」の但し書きを唸りながら見ていた従業員らは、生活雑貨と食料品の買い出しに出ている。この店にとってお得意様とは言えないが常連である客人は、屋内の静けさに戸惑ったようにきょとんと店主を見つめ、らしくない潜めた声で挨拶し、それから腰を落ち着けぼんやりするばかりだった。無論、来訪の約束があったという訳でもない。


 漸く零された言葉の先を待つ。待っていたら、気抜けするしかない問いかけが寄越された。

「浦原さんの斬魄刀って、女の子?」

「……」

 上げた顔付きは問いに対する答えにはならなかった筈だが、言葉が返らなくとも少年は何度か頷きながら納得する。

「だよな」

「ええ。まあ、ご存知でしょうけど名前からして、女性ですよねえ」

「や、そうじゃなくて。実際はほら、何ともいえないけど、カッコは小さい女の子なんじゃないかなって思って」

「……」

 片眉を持ち上げ黙り込んだのか失語したのか。この胡散臭い店主の精神世界が如何様であるか少年は知りもしないが、夕日の射し込む駄菓子屋のような懐古的な空間は非常に似合いな気がしたのだ。まるで入り込んだかのように、自分が生きる世界とは断ち切られたように感じた。和紙や彩り鮮やかな糸でこさえた玩具、気泡の入ったガラス玉。

 秘密基地よろしく路地の奥にひっそりと営まれる駄菓子屋の静謐さに当てられたのか逢魔が時に浚われたのか。

 試験期間だったのだ。
 茶飯事だろう喧嘩の売買はともかく、代行業と学生という二足の草鞋でただでさえ疲弊した体に集中力を強いられる試験はなかなかに体力を消耗させていたらしい。トランス状態にでも陥っていたかもしれない。柔らかな黄昏に照らされた畳の上に鞠が転がり、愉快そうに笑う着物姿の幼子を見たように思ったのだ。










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