表情。機嫌。気持ち。
寝食を共にし続けた親兄弟は当たり前のように容易く読み取る。表出する手掛かりがどんなに幽けきものだろうと、何度となく繰り返せば慣れてしまうだろうから尤もな話だ。あとは癖でも読まれているのか。
自分は感情がないわけではなく、それを表情筋及び態度に表す度合いがどうにも他人とずれているのだ。もしくは極端に、乏しい。特に不便を感じたことはない。感じたことはなかったのに、
現在進行形で寝食を共にしている人からは未だにトンチンカンにも程がある問い合わせを度々受け取るわけだが、幾度はたかれても懲りずに同じことを繰り返しては忍び泣く様が彼から消えたら自分はそれを惜しむのだろうから、これでいい。伝わるよりもずっと手前の話なのだ。手の届くか届かないかのこの距離に居られるだけで、これでいい。
「曾良くんいいことあった?」
「どうしてそう思うんですか」
あれ? あれ? としきりに落ち着きのない素振りを目の前で繰り広げたかと思ったら、彼は揚げ足をとる子どものように嬉しそうな顔を見せつけて「何年一緒にいると思ってるんだい」と独特の甲高い声でつらつらと捲くし立て始めた。聞き流せずに途中でひっぱたいて遮った後「違いますけど」と告げたら萎んだ朝顔みたいに悄げてしまって、その見事な萎れっぷりに不思議と少し溜飲の下がった心地がした。
見透かして欲しいわけでもない