Others | ナノ
※原作寄りパラレル





 不思議な生き物と目が合ったきり外せなくなった。

 送迎バスの暑苦しさに辟易して、今日は一人で帰ろうと終礼を待たずに抜け出して公道へ出たところだった。

 取り敢えず近寄って抱き上げてみようと試みる。ぐんなりと脱力した体は小さく温かく脈打っていた。とくとくと速く微かな振動が合わせた肌から伝わってくる。見上げてきた丸い目は眠たげに垂れた瞼に半ば覆われ、とろんとしていた。
 数瞬考えたのち、連れて帰ることにした。自分の力では生きられそうもない生き物に手助けをしたいというごく真っ当な心情からだった。
 だだっ広い自宅にはそんな生き物が数多く生息している。元々父親がそういうタチなのだ。一匹増えたところでどうということもなかった。


 小さな体からは泥と草の匂いがする。
 まずは風呂だと湯気の立ち込める浴室に放り込むと目を見開いたきり硬直した。これ幸いと石鹸を泡立てると嫌がったので慌てて尻尾を引いて膝の間に固定する。袖と裾を捲っていたのも虚しく既に制服は水浸しだった。



 ますますぐったりしてしまった様子にさすがに罪悪感がちらりと湧いたが、それも食事を与えるまでだった。見ているだけで満腹中枢が刺激される。一体どの器官に入るのか不思議な程の、完全に暈を無視した摂取量だった。不思議という言葉は好きではなかったが、こういう場合に使う言葉なのだろうと納得した。家族三人合わせても一週間は保つだろうと計算されていた食糧が、消えた。

 腹がくちくなればお休みとばかりその場で仰向けに寝転んだ姿に呆れ、頭をはたいて洗面所まで連行する。ぐずるかと思えば今度は大人しくされるがままだった。頭を撫でてやると笑ったので、タマにそうしてやるように背中まで掌を滑らせる。小さな背を最後まで辿ると、声こそ上げなかったものの尻尾の毛がふわりと逆立った。
 まだ気を許されてはいないのだと悟る。不思議と悪い気分ではなかった。心と心が重なるような、深い絆が出来るまで、ずっと一緒にいることになるだろうとぼんやりとした予感があった。

 しきりに目をこする手を止めさせてベッドまで引いてやれば、すぐさま掛け布にくるまり丸まる。瞬く間に寝息が聞こえてきた。
 へんな生き物だ。
 だけど思わず笑みが零れる。焼きたてのプディングを食べた時のように臓腑が濃密で温かいものに満ちる気がする。

 名前を考えなければいけないだろうと思って、それからまだ何も尋ねていないし自分も名乗ってすらいないと気付いた。明日はレディらしく、挨拶と自己紹介から始めなければ。
 暫くの間飽きもせず、健やかそのものの寝顔を眺めていた。










×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -