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※護廷所属パラレル





 努めて見下ろさないよう気張らせていた意識が瞬きの間に崩れ落ちる。一度見てしまえば恐ろしい程気配に敏感な上司がそれを無視するわけもなく、見上げてきた獣めいた光に射竦められた。あまりの刺激に瞼に力を込めて瞑目しようとも脳に焼き付けられた光景は離れない。

 負けた。と思う。
 それでいうなら負け通しだった。急所を晒して剰え握り込まれているのだから今更の話だった。勝ったと感じた記憶がない。反り返った幹をぬるりと舌が伝い指先で嚢を揉み込まれる。与えられる暴力的なまでの悦楽で制御できずに体が跳ねた。

「こら。暴れない」

 綺麗な目だと、間近で覗き込める間柄になって初めて気付いた。
 胡散臭い研究者、妙に腰の低い奇傑、身内に甘く人当たり柔らかく腹の底は焦げたように黒いそこそこの人格破綻者。どうしてこのようなエキセントリックな隊長の下に就いてしまったのか人事に口を出しも逆らいもできよう筈がなく頭をかきむしった過去もある。欲しいと思ってしまったのがいつのことなのか、もうあまり覚えていない。



 自分が女だったらなあとそれこそ女々しい思考に嫌気が差すが止められない。周囲に竹を割ったようにからりと陽性の女性が揃い踏みだから女々しいなんて言葉は失礼だと思う。自分のような男にこそ相応しいと自虐的にやさぐれた。しかし止められない。

 だって女なら繋ぎ留められる。
 証が持てる。
 子どもが得られるとすればそれは生き物として最上の喜びだと父母を見て知っている。


 背を預けた壁に凭れてそのままずるずると滑り落ちそうになる腰を支えられた。それまで跪いていた男が猫のように体を擦り付けながらゆったりと立ち上がる。密着したまま抱え上げられて抱き込まれて、思わず子どもに返ったように首に縋りつき着物越しにも逞しい肩に頬を懐かせた。

 刈り取られ乾いた稲穂にも似た、淡くくすんだ色彩が視界に広がる。肌にほど近い髪先が汗に濡れていて、触れたそれはちょっとだけ冷たい。とくとくと早い脈拍に何故だかほっとする。抱擁は温かい。溜まった熱を逃がそうと大きく息を吐いて後頭部を浦原の首に当て部屋の入り口に顔を向ければ、宵闇に沈みつつある床の上に無造作に伏せる白いものが目に入る。
 ああ。

 隊首羽織りが汚れると、何度言っても聞き入れられたためしはない。小言にもならない部下の必死の訴えを、楽しんでいる節すらあった。体の下に敷かれてことに及んだ時を思い出す。終わってから漸く気付き正しく顔面蒼白になった自分、過ぎ去った今だからこそ笑える話だ。


「何笑ってるんスか」

 喉を震わせるような低めた声は興を削がれた男のそれで、怯えたとは認めたくないが背に回した腕を引っ込めたくなった。脱力してぐずぐずに蕩けた体が構える前にひやりとした感触を飲み込まされる。壁と上司に隙間なく挟まれて逃げ場はなくて、衝撃で仰け反った拍子に思い切り頭をぶつけた。痛い。

「……ぃいっ、うっ、」

 腰を揺すられる度に強引に押し込まれた先端が体を割り拓いて進んでいく。自分はとっくのとうに剥かれ二の腕に絡まるだけの死覇装だが彼はいつの間に袴を落としたのだか。必然的に合わせが緩み筋肉に覆われた胸板が露わになっていた。


(こちらがひやりと感じたならば相手はさぞ熱く思っているのではないか)


 温度差にそのまま心情を当てはめたくなって首を振る。最中に余計なことばかりを考えるようになったのは行為から快感を見いだせるようになってからだと自覚していた。最初の頃は痛みと羞恥に全てが支配されていた。

「……ぅ あ、あ、あああぁっ、」

 自重と壁と男に動きを押さえられ根元まで押し込んだもので遠慮も容赦もなく突き上げられる。待て、早い、もうちょっとゆっくり、伝えたいのに切れ切れに喉から押し出されるのは喘ぎばかりだ。
 人を焦らして生殺しのような愛撫を施す時はやけに饒舌にどうでもいいことを滔々と語る上司兼恋人が、言葉少なに行為に集中する時がある。そうしてそんな時は決まって足腰の感覚が痺れるまで執拗な淫行に付き合わされる。まだ執務は終わっていない。けどどうせ今日一日では終わらない量だったのだ。いずれにしても諦めるしかない。大人しく力を抜き身の内を抉る侵入者を食い締める。

 吐息を散らす口を塞がれ上も下も擦り合わせる粘膜の心地よさに目を細めて、涙に滲んだ世界の合間を縫う声を不意に知覚する。一護サン、一護サン。
 こっちを見て、ボクだけ見て、何にも考えないで。

 そりゃ無理だ。意趣返しのつもりではないが目前にあった耳に噛みついた。揺すられる勢いが弱まらないせいで何だか血の出た感触がする。
 ああ不味い。マズい。



 内側で一人あれこれ悩んでいい答えに行き着けるとは思わないが、余計な心配は一つ減ったかもしれない。
身内に響く感覚は形容し難い生々しさで、刺してるんだか叩き付けてるんだか暴力と紙一重の抽挿にようやっと慣れてきた体が悦楽を拾い集める。押さえ付けられた壁に擦れる背中とぶつかる頭。軋む関節が悲鳴を上げる前に全部飲み干して貪婪に快楽だけを追う。おかしなことに、確かに感じたのは優越感だった。でもだって、女だったらきっと、こんな扱いには耐えられないから。

 しんどいけど、死にそうなくらい気持ち悦い。
 ああ、隊長、望みの通り、何も考えられなくなるまで何だか間もなさそう、ですよ。










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