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 呆気なく裂けた皮膚が大胆に中身を晒し、一拍置いてむっとする腥い血と臓物の臭い。ショッキングピンクの内側に縞模様の走る筋肉とクリムゾンの心臓。骨の断面。広がる血溜まり。もういやだこんな生活!
 食傷気味の安っぽい台詞をこんなに心込めて叫ぶ日が来るなんて人生は分からないと思った。

 何がどう転んでも結局必ず悪い方にしか向かわない日々が魔の永久運動的に続いている。ああ、ああ。合わせ鏡にも似ている。こちら側の与り知らぬ世界まで続いている永遠の領域、ゾーンが広がっている、ちっぽけなわたしたちの生涯をかけても到底掌握できない事実に気が違いそうになった。

 こんな時どうすればいいのだっけ。ペチュニアがよくやっているあれを真似して紙袋を持ち歩こうかしら。わたしにとって先輩に当たる彼女は「一緒にいると心が安らぐ」という花言葉を冠する植物の通り、匂い立つような青藍の毛並みを光らせてしとやかに柔らかに笑う。

「待っててねラミー、わたしそれどころじゃないの、見て。返す時は必ず正面を向けてってわたし何度も言うのに直ぐこうなっちゃうの」

 ラックに上下逆さまに差された雑誌を引き抜く彼女から放たれる何かで全身の毛が逆立った。毛穴から冷たい汗が噴き出す。曖昧に笑顔を返しながら後ずさり距離を取って駆け出した。また何かが始まるところだった、させてたまるもんですか!
 舞台が暗転すれば何もなかったことになるとして、いいえそれこそが一番の苦痛。賽の川原の石積みそのもの。



 ねえ、わたしたち自然を愛でる心も恋する気持ちもお茶を楽しむゆとりだってある。友達と一緒にいるのは楽しいしゲームもするしジャンクフードを齧りながらお喋りもする。こうも毎回理不尽な苦痛と暴力に晒されるのはあんまりだと思うのって愚痴を言ったら、つぶらな瞳でミスターピクルスは諄々と諭すみたいに自然の生き物がなべて自然の猛威と神が定めた弱肉強食のルールに縛られている事実をわたしに語った。

 破裂しそうだった思いを外へ吐き出すことでほっと一息つけた気がして、わたしは冷静に彼の言う意味を考えてみる。
 そうね。
 考えてみれば、あとはもうちょっと痛覚が麻痺して恐怖を覚えなくなれば、ここの暮らしも楽しいだけなんだけれど。充足した毎日と多少の不満。これってもしかすると狭義じゃ幸せってことなのかしら?










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