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 生まれて間もなく大まかに、しかし必要な事は全て、端的に教えられる。何を知らずともまずは衝動のままに振舞えば間違いないと。



 現実的な意味でも、また心の面においても、抗争がサイヤ人の生きる糧だった。戦わなければ全てが腐る。攻撃的で荒々しい精神に相応しく肉体もまた戦闘に特化した強靭さを誇る。移住した当初こそ極々少数だったが、星に適応した後は元来の繁殖力を存分に発揮し瞬く間に倍増した。生産は他種に頼り消費を繰り返す。どこまでも強く。力を振るうことこそ根源的な生きる目的だった。
 その性質故に他民族が絶えれば自らも滅ぶ危うさを孕んではいたが、幸運にも極度に発達していた先住民の文明より取り入れた科学力を流用することで、力の矛先は内部へ籠もることなく外宇宙へと向かった。

 新生児数は変わらず増加する一方だったが、遠征先を銀河中に広げたこともあり、戦いに生きる意味を見出す彼らの死亡率と出産率は均衡を保ち続けた。自然に老いるものは極稀である。大抵は限界を求める戦闘の中で生き、死んでいったからだ。


 原始的な暮らしを営み個体数が圧倒的に少なかった時代はそう古くない。その頃から子を孕み産める稀少な器である「女」の割合は異様に少なかった。それ故婚姻により一族に嫁いだ者は、夫となった者が死ねばその兄弟、父親、あるいは息子に娶られ子孫を残した。他民族を侵攻し自国を立ち上げ星を統合し、外宇宙へ出た後も古くから血を守ってきたこの因習が変わることはなかった。寧ろそれが血族の、ひいては国全体の結びつきを強固なものとしていたのだろう。愛着は血を分けた個々人へ向かう代わり民族全体へ集約し、その一角を担うという戦士の矜持は最も尊ばれた。



「男も女も、血を残すことに貪欲なんだ」

 行為の熱に揺らいだ黒い円の中、自分の姿が映り込んでいる。誰もが、細胞に折り込まれた本能に逆らえない。大概手前勝手なサイヤ人も、自分たちが世代を繋いで血を伝えるサイクルの中にいることはよく理解している。己が強くなることと同様に、一族が栄えることも無意識に願っている。

「性欲が強い。機会があれば間違いなくガキを残せるように」

 だったらこれはなんだ。
 どうして欲情が誤作動を起こす。
 本当なら征服する側が従属を強いられて苦しげに息を詰まらせている。
 勘違いじゃないのかと首を捻りたくなったのも最初だけだった。直に触れて直ぐに分かったからだ、己が欲しているのは確実にこれらしい。

 瞳を覗き込めば、免疫のない接触に丸い瞳は困惑の色を刷いて見つめ返してきた。まるで邪気のない表情は幼子の頃から変わらない。何かを、誰かを征服しようといった欲求とはまるで無縁に見える。本当にこの男が子を残せるのか、その時ふと疑問が頭を掠めたのだ。その疑問は己の中から出て来たものだのに酷い不快感を齎した。可不可の問題ではなく、このまだ少年の域を出ない若造も何かを手に入れようと執着するかもしれないという可能性に、理不尽なくらい腹が立った。


 衝動に任せて一向に収まらない熱をぶつける。初めはされるがまま揺られていただけの体はいつの間にか熱っぽく腰を使うようになっていた。汗の伝う額をまだ薄い胸に押し付ける。呼吸も律動も重ねてしまえば染み入るような悦楽が脳に滲んだ。意識の眩めくそれを追って、日が沈み体が睡眠を優先させようと訴えるまで、延々と求めて与えた。






 重い。
 意識をはっきり取り戻す前に払いのけたものが腹から落ちる。そのまま寝台からも転げ落ちて拉げたような呻きを上げた。再び眠りを求めようと寝返りを打つも、晒された肌がすうと冷えた感覚に眉が寄る。これまたほぼ無意識に腕を伸ばして、寝台から落ちた塊(落下の衝撃にもめげずに寝汚く惰眠を貪っている)を拾い上げ抱き込んだ。脚を絡めて腕を回せばすっぽりと内側に収まってしまう具合の良い湯たんぽを抱え、顎を髪に埋める。深い呼吸を規則的に繰り返すそれに誘われるように再度眠りの層に身を浸した。

 衝動のままに振舞う事が正しく心と体の欲するところだ。ならばこれで間違いない。どこから来るのか、意味があるのか、追究は彼らの専門外だった。










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