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薄いけど面積のある、独特の眉を引き締めた凛々しい顔付きで二の腕辺りをガッと掴まれたから何が始まるのかと驚き半分期待半分、告げられたのは「一緒に帰ろう」って俺は当たり前と思っていた今更の事項だった。

センターも終わり、沈鬱に自己採点も済ませた。
仮点数とデータを突き合わせてみんなが書き込んだ最後の志望調査票、そのペラペラの藁半紙には志望順を入れ替えたり志望先を180度回転させたり或いは全くブレなかったり、そんなクラス全員の不安や葛藤や覚悟が触れそうなくらい浮き出てる筈だ。ほんとに。(個人面談じゃ泣いた奴もいたらしい)

そんなわけで特別時間割に切り替わって専門課外も始まったこの時節柄、改まった顔をされる心当たりといったら「今から第一志望変える」とか「実は進学しない」とかガチな相談かと緊張した肩に力が入る。



もうすっかり日が落ちていて、テールランプが誘導灯みたいに道に連なっている。
響くクラクションとかエンジン音とかアジア杯の余韻に熱く浸る甲高い声とか、近所のボクシングジムに通う強面が俺たちを軽快に追い抜かしていく両足のリズム。
色々が混じり合う雑踏、薄暗い歩道、隣を歩く同級生はいつも通りに見える無表情で履き古した革靴をコツコツ言わせていた。
眉間が少し狭まってる。真っ黒の髪と真っ黒のマフラーに挟まれて青白い肌、鼻だけ赤い。不躾なくらい見つめてみたら無表情が口を利いた。

「雷蔵は?」

「えーと小論文対策だろ。三郎は面接?よく分かんないあれ、学校来てんの」

「来てるだろ。竹谷は今日部活だっけ」

「そー。最後の指導だって。絶対最後じゃないよあれ、通い詰めるよ、卒業まで」

後輩も寂しがってたもんなあ。引退しても頼られてた。あんな懐かれたらそりゃ可愛いだろな。

一頻り竹谷の人徳を話題に盛り上がっていたら兵助はコンビニの駐車場をずんずん踏んでいく。
慌てて追った。



店内の暖房の名残に頬を赤くした兵助はあちあち言いながら掌にペットボトルを転がして暖を取っている。
バレンタイン色に染まった菓子コーナーを興味深そうに冷やかしていたマイペースな姿からは特に話がありそうな雰囲気は感じられず、最初に感じた緊張は店を出る頃にはすっかり霞んでしまっていた。


あったかい飲み物に馴染んだ口でドラゴンみたいに白い息をぼんぼん吐く。
駐車場の冷えた車止めに腰を預けたまま暫く無言でココアを啜る。兵助は早々と飲み終えていた。飲み口に歯を立てながら風を捲いて通り過ぎて行く車の群れにぼんやりと視線を投げている。
おやと思った。

口に拳を押し当てたりストローを噛んだり、何かを考え込む時の兵助は口元がいつも落ち着かない。

どうしたのかなーと思って横目で窺っていたら、こっちを向いた。
それが教室で俺の腕を鷲掴んだ時と同じ顔だったから、あ、と思った。

「あのさ」って口火を切った後に兵助は目を伏せて、珍しくぼそぼそ喋る。

「竹谷とか、もう学校来なくていい人もいるじゃん」

「うん」

「授業もないし。受験対策とかしか、ないし」

「うん」


三月に入るその日が卒業式だ。
言いたい事は何となく分かった気がした。俺も、じんわり圧し掛かる受験のプレッシャーにかき消されそうになりながらも今年の夏くらいから、ずっと思っていた事だったからだ。
だから先手を打った。
(だって兵助の口から聞いたらそれはちょっと鼻の奥が痛くなりそうだ)

「寂しいよね」

「ん」

伏せられていたでかい瞳がぐるりとこちらに向けられる。
相変わらず眼力が強いなあ、そういやよく知らなかった頃はちょっと怯んじゃってたなあ。見た目クールだし、初めは怖くて上手く話しかけらんなかった。
でも、真っ直ぐ過ぎて睨んでるみたいだけど、ひたりと当てられるこの目は最初から嫌いじゃなかった。

「移動教室で普段見ない奴らと一緒に授業あったり、竹谷がこっちのクラスに遊び来たりとかさ。あと、休み時間に勘ちゃんが早弁してたり」

「あー。してたなあ」

「帰りにどうでもいい事でだべったり。遠回りしてラーメン食べて帰ったり、そんなんがさ、」

「うん」

「…もうないんだなあって思ったら、そういうのすげー貴重な事だったのかなって」


兵助が含羞むように目を細めてつっかえつっかえそんな事を言うから、うん、って言いながらやっぱり何かしんみりして鼻が寒さのせいじゃなくツンとなった。くそ。不意打ちにも程があるよ。卒業式までとっとけよ。


「俺、卒業式じゃ泣いちゃうかも」って茶化したら真面目な顔で俺もと返される。
もー。ダメだこりゃ。
明日は早弁してやる。
そして卒業式まで延々一緒に帰ってやる。

その旨告げると兵助は珍しく声を上げて笑った。



***



アップロードの手順とかトップのタグが分からなくなっちゃいました…ので取り敢えず打った分をこちらに上げる

あとで改めてアップしようと思ったけど時事ネタだしこのままでも良さげですね
2011/02/02 23:18


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