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りる、りる、と氷が鳴っている。
熱を与えて奪い取って、液体と個体が発する軋るような音は沈黙を際立たせた。

俺は椅子に座らされている。
向かいには静かに怒れる男が一人。
ここは一種の舞台で、そして裁きの場であるらしかった。

「何か言うことは」

「知られるようなヘマしてごめん」

大人しく問われるままに応えると、尚更に彼の機嫌は傾いた。昔から俺は怒らせた人間を宥めるのが得意でなかった。
悪戯好きで茶化し屋という性分のせいだと思う。三つ子の頃からだからきっと百まで治らない。

詰めが甘かった。
誰も傷付けず完全に犯行を闇に葬り去るためには、完璧なる隠蔽が必要だったのに。最後の最後で犯したミスは俺を窮地に立たせ、今現在も責め苛む。

…やっぱり、遠くても不自然でもコンビニのゴミ箱まで捨てに行けばよかった。


「美味いもんは分け合って食おうとか、思わなかったわけ?」

「すみません。反省しています。今すぐ代わりを…」

「僕はね!水羊羹一箱全部食われた事怒ってんじゃないんだよ!」

お前のその根性が腹立たしいんだよ!ってよく通る声と拳でテーブルが震えた。ご近所迷惑だよ。

やれやれ。
資源ゴミの日まで間があったのがいけなかったよな。そもそも缶だったのがいけなかった。でも美味しかった。冷たくて上品な甘さで、この季節炭水化物もタンパク質も喉を通らない俺にとって福音のごとく祝福された贈り物だったんだ。

受け取った日が雷蔵の帰ってこない日ってのもいけなかった。
一人だと飯作ろうと思えないんだ。

何より雷蔵が怒るポイントは俺が殊勝な振りばかり上手くてその後の態度と行動に誠意が見られず、そしてこうして自分の非を他人になすりつける責任転嫁が得意技って事なんだと頭で分かってはいるんだけど。
これもお前が知ってる通り三つ子からだ。諦めてくれ。


大体君は昔っからそうだよね!と終了の気配を見せないお小言をひたすら拝受する。溶けて輪郭を変えた氷がかろんと沈んだ。
2010/08/27 21:01


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