恋は病だから/この病を愛にする方法を 俺は知らない

何故だろう。クロエは溜息を吐き出した。
隣にいるフィンが不思議そうに首を傾げ心配そうにこちらに視線を向けるのがわかった。
困ったら相談しろよ、と周りは言ってくれるのだがこの胸の中のモヤモヤに気づけたら苦労しない。
クロエは確かに自分の中の不安を敏感に感じ取っていた。しかしその正体がわかっていない。
いつもそうだった。昔から不安になってはその正体に気づくことなく笑って誤魔化し過ごしてきた。
いつでもポジティブシンキングを心がけているクロエの良いところでもあり悪いところでもあった。
兄であるクリスに分析が足りないと叱咤されることもあったが分析しようにもできないのだ。

「一体どうしたんだよ、溜息なんかついちゃってさ」

「何でもないよ。ただ…」

ただ?とその隣りにいるマルコが顔を向けてくる。
自分は何を言おうとしたのだろう。クロエは開きかけの口を閉じ黙って廊下を歩き続けた。
訓練終わりで疲れているのかもしれない。早く自室に戻りシャワーを浴びて寝よう。

「今日もピアーズさん来なかったな」

マルコは不満げに言った。
確かにね、と相槌を打つフィンの隣りでクロエは微かに反応を示した。
クロエの教育係のピアーズ。彼はあの合宿騒動(脱水症状の件)以来、新人たちの訓練に見に来なくなった。
嫌われたのだろうか。どこか傷ついた様子でクロエは窓から差し込む夕陽を見つめた。
じわりじわりと目に滲みる。その様子に友人であり同期の2人は揃って首を傾げるのを感じる。
それを振り払うようにクロエは纏めていた髪を解いた。顔に垂れてくる髪を気にせず歩き続ける。
髪が自分の表情を隠してくれる。その安心感にそっとクロエは表情を緩めた。

「あ、ピアーズさん」

フィンの声にクロエは反射的に顔を上げた。ピアーズの動揺したように僅かに揺れる双眸。
そんな彼の様子に気づかないのかマルコとフィンは遠慮なくピアーズへと近づいた。

「ピアーズさん!最近訓練に来ないですけど忙しいのですか?」

困ったように苦笑を浮かべるピアーズにフィンが首を傾げる。

「ああ…ちょっと書類の整理とか任されて」

目が合うと逸らされる。それをわかっていたクロエは視線を落としたまま黙りこくっていた。
ピアーズは自分の前ではこんな調子だ。会うと思い出したように踵を返したり目が合うと逸らされたり。
まるで避けられているかのよう。

「フィン、マルコ」

出来るだけ何でもない風に。

「私寝たいから部屋戻ってる」

2人の答えを聞かないうちにクロエはピアーズの横をすり抜けて早足で寮へと向かう。
背後から声が飛んできた気がするが聞き取れなかった。大したことではないだろう。
クロエは気にせずその場を後にした。

「え!?クロエ!夕食は?どうすんの?」

戸惑うように眉根を下げ、遠ざかっていくクロエの背中に向かってフィンは声を張り上げるも届いてなかった。




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