崩壊の合図は聞こえない

「また振られたの」

ノックもなしに勝手に部屋に入ってきたのり子が、冷めた目でわたしを見た。

「そう。…なんで?」
「まさ子ちゃんが足の爪の色を変えるか拭き取るかするときは大抵振られたか、誰かと付き合うときだけだから。…今度は何が原因?」
「んー、向こうの束縛がひどくてね」

わたしは束縛されたくないの、と言えばのり子は贅沢ね、とため息をついた。
元はと言えば向こうが悪いのだ。ちょっと用事があったから話しかけただけなのに、誰ともしゃべるなとわたしの胸ぐらを掴んできたのだ。そんなことされてまで付き合う必要はない。

「のり子はいい人いないの」
「…わたしは、今はいらないかな」

ふぅん、とだけ返事をしてわたしは再び爪の色を落とす作業に戻った。

その数ヶ月後、わたしはのり子が好きだった人と付き合うことになった。そのことを報告すると、のり子の顔は青くなり、そして目に涙をいっぱい溜めてわたしを罵った。

「信じられない!まさ子ちゃんなんであの人なの!なんで、いつもいつもまさ子ちゃんはわたしの好きなものを知らない間に取っていくの!最低!やめてよ!わたしだってわたしだって!」
「だからごめんって言ってるじゃない!知らなかったのよ!だいたい教えてくれなかったのり子も悪いでしょ!」
「わたしがあの人と仲良かったの知ってるじゃないの!」

知らないわよそんなこと、と怒鳴ってやるとのり子はポロポロ涙をこぼしながら口を閉じた。
久しぶりに怒鳴ったせいできいんと耳鳴りがした。

「…ねえ、なんでだろうね」
「…前もこんなことあったね」
「あの時もまさ子ちゃんが取っていっちゃった」
「そうね、気づかないうちにのり子から奪っていたね」

ごめん、ごめんね、とつぶやくともういいよ、と力のない声で返ってきた。
のり子の視線は、新しく白に塗り替えられたわたしの足の爪に向いていた。

いつもそうだった。
わたしの欲しいものはのり子の欲しいもの、のり子の好きなものはわたしの好きなもので、その度にぶつかりあってきた。
幼い頃はお菓子だったりぬいぐるみだったりまだかわいいものだったが、お互い同じように成長していくと好きな人まで同じになった。
高校生の頃、わたしはのり子が好きだった人と付き合った。
のり子は泣きわめいた。それからだ、のり子がわたしの恋愛に冷めた目をするようになったのは。

総て同じの双子なんて、不便で苦しくてかなしいだけだ。
この日、わたしはもう一度のり子から奪ってしまった。
それでもわたしたちは離れられない。2人でひとつだから。




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title by 怪物





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