途中まで寄り添っていたはずだ。
寄り添ってお互いを必要としていたはずだ。真実はちがったけれど。
わたしの一方通行だったとは信じたくはないがそれが真実だった。
気づいたときにはすでに遅かった。
「誰の顔も見たくないわ…」
「まあまあ先輩、そう落ち込まないで。ささ、飲んで忘れましょう」
「うわーん、竹内が優しい!飲む!」
「僕はいつでも優しいですよ」
「うざい!けど今は許す!」
「うざくはないですよ」
振られて一週間。朝起きても隣には誰もいない。わたしはそれにまだ慣れることができないでいた。
「男なんてもう信用しない…」
「それは困ります僕が」
「あんたが困ることなんてないでしょー。ていうか早く彼女でも作ったらどう?わたしにかまってないでさー」
本当はこんなこと言いたくない。
本音と吐き出した言葉がいつもちがうのはわたしの悪いところだ。これが原因で彼に振られた。
今は1人でいたくなかった。
「先輩ほっといて彼女なんか作ってられませんよ」
しれっとした顔で竹内が言った。
机に突っ伏していた頭をゆっくり上げて竹内を見つめる。
「どういう意味」
「正直早く先輩振られないかなって思ってましたし」
「…うるせー」
「そしたら後輩じゃなくて男として見てもらえるかなって」
「…ん?」
思ってたんですけどねー、と竹内はわたしに目線を合わせた。どうやら、酔っているようだ。
「竹内酔ってるなー」
「僕飲んでませんよ」
「あれー?」
「酔ってるのは先輩ですね」
「うふふー、そうかあ」
竹内が立ち上がってお会計をしに行った。今日は奢ってくれるのか、とわたしはふわふわする頭で帰る支度を始めた。立ち上がるとふらふらしたが竹内が支えてくれたので平気だった。
そのまま店を後にして2人でふらふらと歩き出す。
「たけうちー」
「なんです?」
「呼んだだけー」
「あのなー…」
急に竹内の名前が呼びたくなって呼んでみるとため息をつかれた。
竹内が敬語じゃなくなるときは大抵呆れているときだ。
ついに竹内にも呆れられたかと思うとかなしくなる。
「あのな、そういうのやめろよほんと」
「ごめんごめん、そんな怒んないで」
「人の気も知らないで」
この鈍感先輩が、と竹内がわたしを引っ張った。引っ張られた衝動で竹内に抱きついていた、否竹内に抱きしめられていた。
「ほんと知らないからな、あんたの気持ちもなにもかも」
「は?なにいってんの竹内」
「もう知らん」
我慢の限界だと竹内がぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
わたしはされるがままに抱きしめられていた。
ちらりと見えた竹内の耳が真っ赤で、ようやく彼が何を言っているのかに気づいたわたしは相当なバカだと思った。
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title by 白猫と珈琲