熱帯夜の朝
★ 熱帯夜の朝
【高校生と高校生】
「……あぁ……」
ジー、という蝉の声に被せて、本日の第一声がもれた。
今朝の天気はまあそこそこらしい。網戸を透かして入ってくるわずかの風と太陽光とに、今日は薄曇りの天気なのだと認識する。
外の音は蝉の声と時折通る車の音と、夏休みに入って騒ぐ子どもの声だ。
あと、すぐそばから扇風機が風を作る音がした。昨日は熱帯夜だったせいで、一晩中つけていた名残だ。
さいわい今はそれほど暑くないが、昨夜は最悪だった。朝方になってもほとんど気温が変わらず、オレはぱんつ一枚になっていたというのに扇風機の風を受けても涼しいどころか、肌が汗ばんで仕方なかった。
熱帯夜ってのは疲れるからなお悪い。
いまいちすっきりしない寝覚めにしばらく横たわったままぼんやりしていたら、玄関の鍵が開く音がした。
うちの合鍵を持っているのなんて、一人だけだ。そうしてその一人には特別に気を遣う必要もないので、オレはベッドの上で彼の到来を待つことにした。
「……うわ、なんつーザマだよ……」
「いやー泉、昨日暑かったなー。」
部屋に入ってきた人物は、オレを見るなり眉を顰めた。
そんな彼に笑ってやると、彼は呆れたような顔をして扇風機の首をいじり、オレの横たわるベッドに腰を降ろした。お陰でオレに風は当たらなくなったが、夜に比べればだいぶ涼しくなったようで困りはしない。
彼は右手に下げていたコンビニ袋からアイスを取り出して、わざわざオレの無防備な腹の上に乗せた。
いたずらっ子なんだからもう。吸い出すタイプのパックのそれを取り、体を起こしてそばに座る彼を反対の腕で抱く。
熱の塊を抱いているのにそれほど暑く感じないなと思ったら、薄曇りは黒くなっていて、そこから雨が降りだした。
網戸にかかるカーテンが大きく揺れ出す。風も出てきたようだ。
「こんな天気じゃ外出らんないねぇ。」
「だから何だって?」
「部屋ン中でできるコトして遊ぼう、ってさ。」
パックの吸い口を離す時、ちゅ、という音が彼の耳許で弾けた。
彼はそれで顔をこちらへ向けると、にやつくオレの顔をそのおっきな両目で真っ直ぐに見つめてきた。
OKかな。薄い唇を親指の腹で撫でてキスしたら、バニラの甘い味がした。こいつのはクッキーバニラかな。舌を舐めて答えを当てたら、ベッドに押し倒されてしまった。
「泉、積極的ィ。」
「るせぇ。おまえこんなエロいカッコして待ち構えてやがって、そりゃこういう展開になるだろ。」
「とかなんとか。どうせ始めからオレと遊ぶ気でいたんだろ?」
「おー。余計楽しめるカッコしてくれててありがとよ。」
オレに馬乗りになって、かわいい顔して腹を撫でてくれるもんだから堪らなくなって笑ってしまった。
なに笑ってンだとか言いながらそいつもとびきりかわいく笑う。
ああ、たまんねえなあ。こういうご褒美が待ってるなら、熱帯夜で寝不足だって我慢できそうだ。
手を伸ばして扇風機の風を少し強めにした。
涼しくなったってこの部屋だけは、もうしばらく熱帯夜の延長だ。
―― Tokonatsu no RAKUEN Babe.
↑RIP SLIMEの楽園ベイベーの歌詞です。