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夜に燃える


バイバイ、バイバイ、皆捌けてゆく

手に手に軍手や皮手袋を填め


でもオレはそんなのしない。

寒くたってかじかんだって、指先が真っ赤になったって、手のひらを外気に晒してやる。



「一緒に帰ろー」


「おう」


「あれ、泉また手袋しないの」


「しねぇ。」



何度言っても無駄だぜ

瞬きするあなたは外気に吐息を白く

赤い俺の手をとって

ちょっと待てとこぼす。


大きな手で俺の両手を包み込む。

八度の外気から守るように

たいせつに

はあっと息を吐く

空も街も一緒くたに雪一色で、

それも今や夜色

蒼い世界で

ぽっ と灯る吐息の白



暖かい。



凍えた指を

あなたに包まれているだけで

俺の熱い血が廻る

さすってもらうだけで

マッチのように火が灯る



あなたはそうして手を暖め

俺は無心にあなたを見つめる

あなたの行動すべてがくれる

熱の一片も逃さないように。 


「…手は大事にしなさいよ、商売道具だろ」

「いンだよ。」

「しょーがねぇよな。手つないでやんよ。」



左手を絡め

寂しい右手はポケットへ

だって手袋なんかしたら、

こんなふうにしちゃくれんだろ。

寒くたって さ

俺はこの温度が好きなんだ。




―― little little flower
      is on my hands.

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