君の体温、恋の熱。
だんだんと深まる秋の夜は紺のいろ。
同じ色で世界に満ちる大気はさきごろよりも、ぐっとぐっと澄みきって冷たい。
けれど、暖房をいれなきゃならない程じゃない。でもそれでは寒いから、浜田と泉はくっついていた。
ふわふわした柔らかいブランケットを膝に掛けて、泉は浜田の脚の間で少し微睡む。泉の椅子のようになっている浜田は彼を後ろから抱きしめつつ、傾いだ首の為に頬へかかった黒髪を指で掬い、耳にかけてやっていた。
そうして、頬から首筋、鎖骨の下にかけて露わになった肌色に唇を寄せる。耳の後ろと首筋に軽くキスすると、泉は鼻にかかった音で小さく声をあげた。
「ン。」
「泉、首出してるから寒いんだよ。」
浜田の言葉に微睡む泉は答えない。
瞼もうっすら上げられてまた閉じたので、浜田もそれ以上は言わず、今度は耳たぶに口づける。
泉が今着ている部屋着は、襟ぐりがだいぶ開いている。これは浜田の部屋着を泊まりに来た泉が勝手に着ているのでサイズも大きく、それに加えて浜田は襟ぐりの大きい服が好きというせいもあり、泉の首もとは下手をすると片方の肩が露出してしまいそうな程開いていた。
下に着たタンクトップがほんの少しだけ肌を隠してくれているが、焼け石に水程度だ。これでは寒いだろうな、と浜田は思う。
首や手首などは大きな血管が通っており、それは全身に熱を送り届けている。なのにそこを冷えた空気に曝していれば当然体温も下がってしまうのだ。
窮屈なのがいやで襟の開いたものを好んで着る浜田だが、それはそれとして冬場は部屋でもネックウォーマーなどで対策している。
泉は逆に襟のあるものが好きなくせをして、泊まりに来ると浜田の服を着たがった。
かぜを引いたらいやだな、と浜田が何か巻くものを探して辺りを見ると、腕の中の泉が動いた。
ブランケットを引き上げて肩まで隠し、横を向く。そして脚を引っ込めてブランケットにくるまってしまうと、泉は寝る、とのたまった。
「なら横になれよ。疲れるだろ、それ。」
「いい。寝ついてちっと経ったら、おまえに任せる。」
浜田の胸に側頭部をくっつけて、泉は少し擦るようにする。艶のある黒髪が軽く震え、しばらくしてそう重くない体がすべて浜田へ預けられた。
やがてゆるやかなリズムに変わった呼吸をすぐ側で感じながら、浜田は優しい目をして、ああそうか、眠った恋人をそっと抱きしめてやった。
二人が重なるところから、熱が溶け出して同じくなり、そこに心地好さを作り上げる。
ひとの熱は優しい。熱くなく、冷たくなく、表皮から中の肉までじわじわとあたためてくれるような身近な熱。
それが愛するひとのものならなおさらだ。
生きていると感じる熱。信頼されて預かる熱。愛するひとの熱。愛され受け入れられる自分の熱。
それが触れて交わり生む熱は、なんて心地好いのだろう。
今はもう夢の中の彼へ、もう聞こえないだろうから、浜田は唇へ飲ませるように呟いた。
おやすみ、と優しさと熱を持った言葉は、青い夜とよく似ていて、泉をそうっと包んでくれた。
―― Vesper. to Your Quietude, for the Night.
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