深雪しんしんと夜
今日は当番で遅くて、空になった部室を見渡し電気を消す。
カチン、と音たてて、施錠する。そうして扉を背にして気づいた。外から音が何もしないと思ったら、雪が降ってるんじゃないか。
しんしんと粉雪が降る夜を、俺は扉に寄りかかって眺めた。一番熱心なのは我が部らしく、こんな時間まで電気のついている部室はない。
真っ暗の部室棟に、ぐるぐるに巻いたマフラーから顔を出し、ふうっと息吐くと白い靄がかかりすぐ消える。
屋根や道や木を雪が封じたように、音まで白の下へ隠れてしまったようだ。
いつから降っていたのか、止めどなく降ってくるそれはもう数センチに達している。今夜は積もるだろう。
と、目の前で夜と雪が揺れた。
「待たせた?」
「いや。今終わったとこ」
安いビニール傘を揺らし頬笑む彼。暖かそうな黒いコートは夜に溶けてしまいそうだ。
そんなつもりはなかったけれど、彼の姿を見たら、急にそんな言葉が口をついた。
「抱いてよ。」
鼻の奥がつんとして。見つめると、少し驚いた顔をしたけど傘を抱え直し、おいで、と腕を開いてくれた。
俺はふらふらと足を動かし、その胸に飛び込む。背に冷えた手を回し、抱き締める。
すると彼も抱き締めてくれた。彼の顎くらいの俺の髪に唇を落とし、抱き締めながら梳いてくれる。
音なんかしなかった。吐息さえ聞こえなかった。降り注ぐ粉雪の中でたった二人、その存在だけ感じていた。
「暖けー……」
「そだね。」
「…積もるかな、雪」
「積もるんじゃねーかなあ。やだなあ」
「でも、きれいだ。」
そうだね。優しく染み込む彼の声を聞いて、俺はマフラーの首に顔を埋める。
夜に降る雪は美しい。大気に漂う光を反射させ薄ら発光する白は、町を音をその下にして尚美しい。
俺たちの町に冬が来た。それは不器用な指をかじかませ、恋人の温度へと促す季節。
「冬、嫌いじゃない。」
「俺ら二人とも冬生まれだしね。落ち着くと言えば落ち着くかなあ。」
しんしんと夜の深雪重なり。十重二十重に、積もり明日は一面銀世界だろう。
けれど今はもう少しこうしていたいと思った。
白の降る二色の世界で、たった二人だけの夢を見ていたから。
―― deeply deeply, i dream 2 colored.
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