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午前四時に蝉は鳴く

 


 空が白み始める午前四時に蝉が鳴くんだということを、僕が知ったのは今年の夏の事でした。


 開け払いのベランダからは遠くの空が鳴く音と、いくらかの雀と蝉の鳴く声がささやかな風と一緒に吹いてきました。

 その朝僕が目覚めたのは僕自身のベッドではなく、ひとつ上の男性の部屋でした。
 僕は前の晩、初めて他人の熱に抱かれてみたのでした。


 部屋のすぐ前の道を新聞配達の原付が通りました。
 僕は昨晩愛し合ったそのままの体で白みゆく空を見つめ、そのあと皺の寄った布団に視線を戻し、昨晩のことを思いました。

 長年の初恋はとても甘く情熱的でありました。
 彼の指は優しく、体や同じそこへ重ねられる唇はとても熱かったのを思い出すと、今でも体が火照るようでした。
 とても素敵な夜だったと、体は覚えているようでした。


「………、」

「ふふ。」


 布団から少し視線をずらすと、隣に横たわる彼と目が合いました。驚く僕に彼は笑いかけると、何を考えていたのと伸びた髪を耳にかけてくれました。

 いや、ただ、早く目が覚めたからぼうっとしていたのだと、僕は目を泳がせました。
 昨晩あれほど噛みついた肩の肉や首筋なのに、僕はそれを見ることがとても気恥ずかしくなったのです。


「どうして目を逸らすの。」

「逸らしてなんか、」

「嘘。…恥ずかしいの?」


 僕と同じように体を起こした彼はそう囁き、僕が彼しか見えないように顔を覗き込んできました。
 その距離数ミリ。唇に吐息がかかり、僕は期待で肌を少し粟立たせました。


「ん……」

「…昨日、どうだった?体どこか痛くない?」

「…痛くない。」

「そ。痛かったら無理すんなよ。」

「うん……」


 見つめた彼の瞳はとてもきれいで、僕は女の子のように頬を染めました。
 そんな僕を彼は優しく笑って、さらに距離を縮めて甘やかに口づけをしました。


 空はもう明けきって夏のそれ。
 まだ薄い青の空から隠れるように、結ばれた僕らはまた口づけをするのです。



―― IT'S SUMMER TIME.


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