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2013 18th Dec.

【好きなひとがいる後輩】



 愛される夢を見た。

 触れたことなどないが、その手は大きく、温かく、しっかりと自分に触れてくる。
 自分は恥ずかしげもなくじっと彼を見ていた。
 目をそらす事などあり得なかった。たとえ夢であっても、自分を愛してくれるなら、好きだよと甘たるく囁いてくれる彼をこの目に焼き付けてしまいたい。


 嘘であっても愛を飲みたい。
 幻であっても触れて欲しい。

 それが、叶わない恋なら尚更。

 熱く熱く愛されて、やがて意識は褪めていく。
 暗闇の中目を開けて、いつものように、何の変わりもなく、自室のベッドで一人横たわる自分に気づいて黒い部屋の隅を見つめた。


 愛されたなんてそんなもの、夢以外の何でもないのだ。


 この恋は叶わない。叶って欲しいと願うことすら許されない。けれど日に日に膨らんでゆく思いを殺せなくて、自分は夢に逃げた。
 現実は自分を拒むから、そのぶん甘たるくなった夢はひたすらに都合がよいのだ。


 自分が恋する相手は優しく、目を和ませてこちらを見つめ、かわいいとか好きだとかをたくさんたくさん耳に注いでくる。
 甘い毒のような吐息で自分の頭はいかれて、みっともない声を出したり泣いたりして痴態ばかりを彼に見せる。

 それは、言いようのない快感。拒むばかりの現実世界で自らを殺すように小さな息をしているから、優しい夢の中ではたがを失って獣みたいに彼を欲しがる。
 そんな浅ましい自分でさえ、夢の中の彼はかわいいと言ってくれる。とてもとても、しあわせだと思う。


 けれど、褪めてしまえば世界は撫でてくれていた手を返し、首を絞めに来る。
 いっそう、殺してくれたらいいのに。
 最早色のない世界になんて、何のようもない。学校に行ったってもう彼はいないのだから。世界は終わってしまったのだから。


 夜で満ち満ちた現実から逃げる為に、自分はまた目を閉じた。
 すぐに目の前へ現れる彼に犯される妄想をしながら、漠然と思った。

 自分にだけ、ひたすら優しい彼。
 熱っぽい目で見てくるそれに好きだって言ってとねだりながら、心のどこかが黒いままなのに気づく。


 だって、こんな彼現実にはいやしない。
 夢に逃げたって、ひどい現実は息をする限りずっとずっと続くのだ。
 結局優しい彼は嘘。真っ黒い夢の中でも、自分はたった一人なのだ。


――― sad sad Kitty.


一年365題より
12/18「 誰もいない、私だけの世界 」

中学三年泉。まさに「恋を患って」おります。
Sad sad Kittyはピロウズの曲ですね、すみません。


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