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2013 17th Dec.
【もふもふな高校生とふつうな高校生】
んん、と鼻にかかった声で三橋が呻く。それを零距離で聞きながら、阿部は窓の向こうの景色を見ていた。
現在もふもふしている獣の阿部は、毛の薄い腹を電気カーペットにくっつけてぬくぬくしていた。
寒い時期は熱源が恋しくなる。どちらかというならこたつに入りたいが、阿部のサイズではこたつを背負う事になってしまうのでできない。
人間のサイズならこたつでも悠々と横になれるのだが、毛皮のためか獣の姿のほうが暖かく感じるので、冬はこちらの姿で過ごしている。
前足後ろ足を折って体をコンパクトにし、カーペットの熱で腹を暖める。
本当なら首も竦めたいところだが、阿部の頭はしゃんと前を向いていた。
そのわけは、長くはないもふもふの首に三橋がしがみついているからだ。
「あ、ったかい。」
「………。」
三橋の両腕は首の後ろに回され、頬は毛に埋まっている。喉から腹にかけては背のそれよりも柔らかな毛だからちくちくはしないだろうが、それでも感覚の敏感な顔の一部が触れている事に阿部は少し緊張していた。
とりあえず三橋が遊びに来てもふもふを一方的に愛でるのはいつもの事なのだが、寒いせいか彼は首にしがみついたきり動かない。
例によって毛皮だし、生きているのだから熱もあるし、また首は太い血管が通っているからきっと暖かいのだろう。
そう思って、しばらく。
首にしがみついた三橋は、毛皮に頬を擦り寄せて時折満足げに息をつく。
はじめのうちはうなじ辺りの毛を撫でていた手も動きを止め、感じるのは本当に三橋という名の熱だけ。
阿部も最早、目付きの悪い猫目を少し細くしていた。
薄い瞼の皮が猫目を半分隠す。
他人の熱とはなかなか心地の良いものだな。そんなふうに思っていたら、廊下を軽快に走る音とドアの開く音が鼓膜を打った。
「三橋さん!」
「うぉ、シュンくん。」
「なんで兄ちゃんと抱き合ってるんですかあ! もー、オレもぎゅってしてくださいっ」
ああ、と阿部が目を細めるのと同時に、三橋の腕がほどかれる。
弟のシュンが出先から帰ってきたらしかった。三橋になついているアレは、オレもオレもとすぐさまもふもふになって三橋にまとわりつく。弟はもふもふになっても大型の犬くらいなので、三橋に甘えるには阿部よりもはるかに都合がいい。
自分によく似た獣がしっぽをめちゃくちゃに振って三橋にくっついているのを横目で見て、阿部は首を竦めて目を閉じた。
部屋の気温が暖かいからか、首にはまだ三橋の熱が残っている。
心地良い眠りが降りてくる中、阿部はふと弟の言葉を思い出した。
抱き合っている、と言われたが、自分は一方的に抱かれていただけだ。
いつか、逆に阿部が一方的に三橋を抱きしめる日は来るのだろうか。
黒い前足で抱きしめるのを想像してみたが、補食してるみたいであまり愉快でなかったので、阿部は素直に夢を見る事にした。
―― Do gently!
一年365題より
12/17「抱擁」
ザGekokujohシュン。
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