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2013 16th Dec.
【高校生と高校生】
夜はそう黒なんかでない。新月ならともかく、満月の近い空はほぼ円らの石が行き、二人を薄く浮かび上がらせている。
背の高い彼は形の良い眉を潜めて、肩ほどの背丈の彼を見た。短く切った真っ直ぐの髪は冷たい外気に晒されて、露わの耳などきっと真っ赤だ。
けれどのっぽの彼が思うのはそうじゃない。はあ、と吐き出される吐息を受ける冷たげな手のことだった。
「だって家近いし、する意味あんまねぇじゃん。」
ぶう、と冷たい手の彼はむくれるが、そんなのは嘘だ。数分の帰り道を遠回りして、自分とうろうろするのが好きなくせに、そんなのは嘘だ。
手は、大切にすべきなのに。そう言うのっぽの彼の手には暖かな手袋がある。
寒さに弱い彼には毛糸のマフラーも、フードのついたコートも、耳たれにぽんぽんだってついた帽子もある。
けれど、隣の彼にはない。何度言っても手袋をしない。
手は、大切にすべきなのに。
寒いのは嫌だが、彼はそれより隣の彼の手のひらが冷えてしまうのが嫌だった。
だからしている手袋をとると、彼に渡した。
暖かいからと渡したそれを見て、かじかむようの手の彼は、冷え始めた手の彼を見た。すこうし考えて、もらったものを突き返す。
「ん。」
「いや、手袋しろって、」
「するよ。でもそしたら、花井が今度冷たいじゃん。オレ良いこと考えたんだ。」
いいからそれして、と返されたのは右の手袋。いくらか熱の抜けたそれをはめると、その片割れをした彼はにっと笑った。
「そんで、こっちはこうすんの。したら冷たくなくね?」
手袋をした右手としてない左手。
手袋をしてない右手とした左手。
してない同士を繋げば、ほら、冷たくないだろと彼はにっこり笑うのだ。
そう夜は真っ黒なんかでない。そうして冷たいばかりでない。
冷えかけの手と冷えた手が作るのはあたたかさ。そこに点るのは夜を乗り切る熱。
手袋をした手は暖かく、してない手はその結び目に熱を点して、ああ、どこまでも行けるよう。
澄んだ夜を、二人どこまでも行けるよう。
―― Maybe, to the clear Moon.
一年365題より
12/16「一組の手袋」
散文詩盛りだくさん。
こうすると短くなるもので…(所用時間30分)
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