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2013 15th Dec.
【かみさまの部下と少年とかみさま】
収穫した果実をおやつにしようと作業していると、窓の向こうに木陰で午睡に興じている少年の姿が見えた。
隣で作業を手伝ってくれている少年にもそれが見えたのだろう、彼は動かす手を休めずに「いつもあんなふうなんですか」と訊いてきた。その声には、彼はいつもあんなふうに好き勝手に過ごして、とてもいいですねという明らかな負の感情が滲む。
それを否定できない自分は、また眠る少年も否定しなかった。
木陰に作ったハンモックで眠りこけているのは、見た目こそ少年だが彼はこの世界の創造神であり、自分が仕える主でもある。
崇敬の対象として申し分ない筈の主を隣の少年が良く思っていないのは、彼の兄弟や大切な人を死なせたのが、主の創造したものであるところから来ている。
比類のない力を有しておきながら、害悪にしかならないものを何故除いてはくれないのか。彼はそう思っている。
それを否定はしない。主が手を出さなかったのは本当だし、手を出せば少年の大切な人々が死ぬことはおそらくなかっただろう。
主はなにものにも手を出さない。
世界は完全に主の手を離れた。それに介入しては、世界はただ主の箱庭になってしまう。
生まれ落ちたものはそれの思うようにすべきだと主は言う。それが、良いものであれ、悪いものであれ。
介入しないことの罪は、隣の少年のような犠牲者を生んだ。それを負うために、主は罰を自らに課した。
世界には魔力というものが満ちあふれる。それを内に宿し魔の王と呼ばれた存在は、百年に渡り世界を呪った。
その呪詛を、主は拒まず向けられるそれ全てを受けた。
一番酷かった頃の主を思い出すと、つらい。魔王の呪詛、それによって狂ったもの、それによって死んだもの、彼らを失った人々の感情のその全てが主を責め苛んだ。
魔王が斃れた今も後遺症として、主は多くの時間を休養に充てなければいけない。
苦しむ主をそばで見ていた者として、それほどの責め苦をなぜ彼が一身に受けねばならないのかと思った。
彼はあの時十分に苦しんだ。今も向けられる害意はすべて受け入れ、心のどこかで痛みを感じているはずだ。
終わりのないその時間を、すべて罰に費やす事を。
それしかしようとしない彼を、否定することなどできない。
「それでも、」
「ん。」
「罰を与えられなきゃ、あのかみさまはきっと、かみさまですらいられなくなるんです。」
手元のリンゴから目を逸らさず、話を聞いていた少年はそう言った。
長く長く剥かれていく赤い皮を見ながら、主を憎んでいるはずのこの少年が主を深く理解していることに驚きを禁じ得なかった。
世界を構成する一部ですら既になくなっている主は、それでも世界と繋がっていたいと願う。
繋ぐものが強い感情であるならよりそれを感じられる。その罪は、確かな絆でもあるのだ。
「もしかして、」
「…なんですか。」
「実はけっこうあいつの事好きだったりする?」
一見自由な主が選択したのは不自由。
けれどそれを選択したのは主の自由なのだ。
好きではないと必死に否定する少年を見ながら、自分以外にも主を理解してくれる人間がいたことが、とてもとても嬉しかった。
――
named the liberty.
一年365題より
12/15「自由という不自由」
走り書きでわかりにくいにもほどがあるのですが、一度やりたかったネタです。
いつか書き直したいです。
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