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2013 7th Jul.
黒く黒く黒く黒くただひたすらに黒い底へ膝を抱えて蹲っていた。
実際世界は黒くなどない事はわかっている。ここは自分の部屋で、薄く開いた大きな窓からはカーテンを透かした風が、ふらふらと揺れながら月明かりで青くなった夜を招いて入れている。
だから、夜を迎えた世界は本当は青く、オレの思うような色でない。けれど黒いと思ったのだ、最早色を混ぜすぎて救いようのなくなった黒い絵の具の色の様に。
そして何物でもなくなった黒は朗々と。
「何、してるんだ?」
「………。」
「そんなふうにしたって、見えもするし、聞こえもする。新月でもない限りの夜は。」
「うるさい」
「明るければ明るいほど、何でもよく見えるだろ。」
「うるさい…!」
何も見えないように何も聞こえないように全てを閉じたつもりでいたのに、耳へ触れた声は奥へ中へと流し込まれる。
それが嫌で仕方がなくて、顔を膝へ、更に深く入れて強く腕を組むのに、それは更に言葉を続けた。声色は愉しげで、拒絶を悦ぶふうでもある。
色みの赤い唇の笑うのが、固く閉じた瞼の裏に見えた。
窓の形をした月明かりの中で黒は形を作る。
それはオレの姿。いやらしく唇を歪めて笑う姿は醜悪過ぎて、見ていられやしない。
「オレに委ねてしまえよ。」
「やめろ」
「欲しいもの何だって手に入れてやる。あるだろ、欲しくて欲しくて堪らなくて、『オレ』みたいなものまで作り出すほど、欲しいもの。」
「やめろ、」
「言ってやろうか。」
「や」
「欲しいだろ?『阿部くん』。」
どうしても言葉にされたくない気持ちが赤い唇に乗せられて、体のどこかが小さく爆ぜた。
どうしても言われたくなかった。はっきりさせたくなかった。知らないふりをしていなくちゃ、つらくて死んでしまいそうな強い思い。
とても嫌で涙を我慢できなくなったオレを、『オレ』はそっと撫でる。
切なくて、切なくて、オレはもうどうでも良くなってしまった。だからそいつの声を、黙って受け入れたのだ。
「好きで、つらくて、それが嫌で、仕方ないんだろ。わかるよ、オレはおまえだもの。」
「………」
「オレも阿部くんが好きだ。阿部くんが欲しい。オレなら、それを叶えてやれる。」
「………」
「欲しいだろ?ほら、それなら、『替われ』ばいい。」
おかしくなる程誰かを好きになったのは初めてだった。誰かをオレだけのものにしたいと思った。それを、叶えたかった。
だからオレは瞼を閉じた。替わったところで何も変わりやしない。
オレはもうおかしくて、『ソレ』は歪んでいて、殆どまともじゃないのだから。
だから瞼を閉じた。触れられるのなら、意識なんて手放しても良いくらい、彼の事が好きだったから。
―― Even so i wanted to be happy.
超人三橋様はいけいけで阿部くんなんかすぐ落とせます。
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