Echtzeit | ナノ
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2016 16th Nov.




 阿部君、と三橋が言った。

「あ?」

 呼ばれて手元から目を離すと、オレの腰の上に乗った三橋が上手に笑っている。さすがに何年も一緒にいると三橋も怯えなくなったし、無駄に年をくったわけじゃなくて色々とまあ慣れてくる。
 うっとりと目を細めてオレを見つめ、薄い唇がきれいな弧を描いてる。これはあれだ、ムラムラしてる時の笑顔。
 三橋は結構性欲が強い。オレよりずっとだ。

「阿部君、」
「だから何だよ」

 一緒に居る事には慣れてきても話すのは苦手な三橋は、よくオレの名を呼ぶ事で話のきっかけを作る。
 オレはそれに何の気なしに返事をして、そして時たま爆弾を食らう事があった。

「あのね」
「おう」
「オレ」
「何だ」

「阿部君から、セックスしたいって誘われたい」

 息が止まって返事が出来なかった。

「いっつもこうやって、オレから誘ってる」

 視線をうろうろするオレをよそに、覆い被さる三橋は拗ねた声をオレの唇に落として指先を動かす。器用な平たい指は太股の内側を撫で上げて、その動きと三橋の顔とを交互に見るオレを、三橋はくすっと笑って見ていた。

「オレだけ阿部君と、したいみたいだ。オレだって阿部君から、誘われたい」

 弱った。拗ねたような声をして、唇を尖らせて、蠱惑的な目をして見てくる三橋をオレがどうして跳ねつけられるだろう。
 いつもは確かに三橋から求めてくる。その頻度が高いから満たされているだけで、オレだって自分のペースがあるから時々は誘ってみるが、それがまあ抱き締めるとかそんなもんで三橋のやり方と比べれば子どもがねだってるみたいなもんなのだ。
 その自覚があるオレに敢えて三橋はやれと言う。
 肚をくくるしかないのだろう。オレは乗っかっている三橋をベッドに押し付けた。このへんは力ずくで出来るからいいのだが、問題はこっからだ。

「三橋、」
「はい」

 ほんの僅かな距離の先で三橋がくすくす笑っている。ほらどうしたのと目で問われるが、慣れないオレは模範解答が出ない。

「セッ……」
「ん、」
「〜〜〜〜ッ」

 こんな卑猥な言葉何でこいつ平気な顔で言えるんだ!

「ふふっ、いいよ。阿部君」
「くっそ……!」
「言葉に出来ないの、わかった。そしたら」

 熱い顔を三橋の肩口に埋めて隠す。耳元に小さな笑いが触れて、三橋はオレの手を取った。

「阿部君の手で、オレの体の触りたいとこ、撫でて」

 溶かすように染み込ますように甘く甘く囁いて、三橋はオレの頭を撫でる。その目は優しくてとろけそうで何かそれはすばらしいもので出来てる菓子みたいに見えた。
 薄い三橋の体。触れたいところならすべてだ。
 それなら出来るとオレは恭しく三橋の体を撫で始めた。なめらかな皮膚はすべりが良くてすぐ夢中になるオレに、三橋はすてきにおねだりをする。

「たくさんキスして」

 おまえが言うならまるで雨ってくらい降らせてみせる。
 さすがよく知ってるな。オレはおまえにねだるより、願いを叶えるほうが得意だって事。

/365お題
11月16日「これが限界」


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