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2013 14th Feb.
【社会人と大学生】
「ただいまー。」
狭い玄関で帰宅を知らせてみても、イヤホンを嵌めた耳には引き戸一枚隔てた向こうからの応答なんて聞こえはしない。
否、両手に持った荷物を板場に置く音すら聞こえない。手の空いたところでやっとプレイヤーのボタンを押すと、ちょうどタイミング良く向こう側からの「何買ってきたの」が聞こえた。
「スーパーの安売り品。」
「またすげー買ったな。」
「そりゃね、男二人分の食材ですから。」
そう茶化してエコバッグの中身を冷蔵庫へ入れる事なく廊下へ置き去りにして、右手の荷物は持ったまま引き戸を開ける。
今までの夜道や暗い玄関と打って変わっての暖かく明るい部屋。その真ん中に陣取ったこたつの天板に右手の小さな袋を置くと、それを前にした恋人は、けたたましく鳴る液晶画面から視線をそれに移した。
「何?」
「店の残り。今日ったらバレンタインだろ?」
コートをハンガーに掛けながらで後ろに話しかけると、ごそごそとクリーム色のビニール袋を開ける音がする。
マフラーとコートを外した代わり、楽な部屋着を上に羽織って自分もこたつに入る。大きな目が特徴の恋人は、紙箱に手をかけてそれを開けるところだった。
「おお、ケーキ!」
「うちの店でさ、バレンタイン用に出してたヤツ。今食う?」
「食う。あ、さっきケトル沸かしたばっかだから、まだ温けぇよ。」
つまりお茶を淹れろとオレには言って、彼はケーキを見つめたままこたつからは出そうもない。そんなぐうたらな彼の為に皿やらフォークやら包丁やらを用意してやり、ケーキを等分する役を任せてこちらはご所望のお茶の準備をする。
ケーキをきれいに切るためには冷たいそれと、よく水気を切った冷たい包丁があればいい。ふたつのマグにお茶を注いで渡す頃には、ホールは八等分になっていた。
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おちもやまもないですね。
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