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2014 16th Oct.
○ 遅すぎたハッピーバースディ
【うっかり彼氏と誕生日彼氏】
手を繋いで店に入るなんて、それこそ十年ぶりくらいだ。
いや、繋ぐなんてもんじゃない。手首を掴み引っ張るようにされ、いっそ痛いくらいの剣幕にオレは手の先にいる背高のっぽに向けて叫んだ。
「ちょ、花井!」
「…………」
「花井ってば!」
「うるせえ。店ん中だから。」
静かにしろ、と言うのだろう、一瞬だけ振り向いた顔は機嫌の悪いそれで、オレは頬を膨らませる。
なんだってこいつが怒ってるんだ。
怒りたいのはこっちのほうなのに。
睨んだって背を向けているこいつには見えやしなくて、オレのイライラはどんどん空へ上っていく。
今日はオレの誕生日だ。この不機嫌背い高のっぽの坊主こと花井はそれを忘れていやがった。事の発端は、ただそれだけ。
そう、それだけだ。オレだって花井が忙しくしてるのはわかってる。
花井は一年だけど部長だし、今月は部活にまつわるいろいろとか、勉強だってテストがあるから自分の事とオレたちの面倒もあるし、だから一年の中のたった一日だけのイベントなんて忘れてたって仕方ないと思ったんだ。
花井が忘れてても、今日はみんながお祝いの言葉とかお菓子をくれた。いくらなんでも付き合ってるんだから二三日したらきっと花井も思い出すだろうし、今日はそれでいいやって思ってた。
そしたら部員のみんなには部活んときにおめでとうって言われたんだけど、花井はそれで気づいたみたいで、その時はびっくりしてた。
やっぱ忘れてたんだなって思ったから、オレは「花井はまた今度でいいよ」って言ったんだ。
自分じゃ気を遣ったつもり。なのに、花井は急に不機嫌になって、着替えるなりオレの手首を掴み、部室から最寄りのコンビニまで引っ張ってきたのだ。
なんで忘れてた花井が怒ってんだよ。
オレはがっかりしたけど、花井は忙しいもんなって気を遣ったのにさ。
黙りこくって俯いて、もう花井の好きなようにすればって思ってたら、花井はお菓子コーナーで足を止めた。
オレたちの目の前には飴の袋がいっぱい並んでる。その中から花井は四角い缶カンに手を伸ばして、オレにおうかがいをたててきた。
「おまえドロップス好きだって言ってたよな?」
「好きだけど……」
答えるやいなや、花井はそれだけを持ってレジに向かう。袋はいらないですとか律儀だなあ、と財布をしまう花井を見ながらオレは思った。
もしかして誕生日プレゼントにくれるんだろうか。
ドロップスはひいじいが好きで、小さい頃からよくもらって食べていた事から思い出深いおやつだ。一缶にけっこうたくさん入っているし、いろんな味があるから飽きない。
清算を済ませて店の外に出た花井に付いていって、わくわくしながらおめでとうの言葉と缶がもらえるのを待つ。
なのに、花井は缶の封を自分で開けると、一粒その口の中へ放り込んでしまった。
それをオレは茫然と見ていた。オレにくれるんじゃなかったのか? 花井は口をもぐもぐさせながら、ふたをしたドロップスの缶をオレのカバンに押し込んだ。
あれ、くれんのか。
花井もひとつ食べたかっただけなのかな。そう思ってオレも食べようとカバンに手を伸ばしたら、花井にまた手首を掴まれた。
「こっち。」
「なんだよ、」
花井が引っ張ったのは、店の裏の暗いほう。動いたらドロップスの缶はカバンの奥に潜ってしまった。
今日の花井はおかしなことばっかりする。
なんだよ、と見上げたら、今度は両手で顔を掴まれてキスをされた。
抉じ開けられた唇の隙間から、レモン味のドロップスが転がり込んで来る。
それは自分で口に放り込むよりすごく甘かった。
「はな、」
「月曜、プレゼント買ってくるから。おめでとうもそん時。……今日はこれで勘弁しろ」
「……プレゼントって、でもこのドロップスくれるんだろ?」
「……やるけど。どうせ他のやつからお菓子ばっかりもらったんだろ。」
どうやら、今度でいいよというオレの言葉が「期待してません」みたいな意味に聞こえたみたいで、花井は遅れてもみんなとは違うプレゼントをオレにあげたかったらしい。
そう言った花井は夜でもわかるくらい照れていた。
まったく、忘れてたのはけしからんけど、花井はこんなふうに時々びっくりさせてくれるから好きになる。
たまんなくなって抱きしめたかったから、キスしてよって駄々こねてコンビニの裏でキスしまくった。
少しだけ寒かったけど唇は甘くて温かかった。
こういうプレゼントも悪かないな!
―― the latest present!
田島さまおたんじょうびおめでとうございます!!
そしてお休みなさい…
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