部屋に涼しい風が入ることが多くなった。
気候が秋めいてきている。布団から足を出すと冷たい床が足先に触れて体が震えた。そろそろ毛布を出すべきだろうか、と考えながらどうにか身を起こす。
隣のふくらみを見れば規則正しく上下をしていた。珍しく夜ふかしをしたのだろう、起きる気配はない。

寝室を一足先に抜けて雨戸を開けると、控えめな日差しが差し込んだ。空は薄黄色に白んでいる。辺りに霧がかかっているからだろうか、見慣れた庭を見ていてもふしぎと別の場所に居るような心持になる。あと数時間もすればすっかり消えてしまうから、これは早く起床した者だけが拝める特権だった。

「何で君は静かぁに出ていくかな」

少し掠れた低い声が廊下に響いた。呆れたように聞こえる含み笑いが、実は寂しがりのあかしである事に気がついたのはいつだっただろうか。
この朝の応酬を何度か重ねる中で、もうひと眠りしたら如何ですか、折角の休みだから──と優しく返していたつもりの返事は実は突き放したように聞こえていたのだとわかった。
名頃さんは存外子供じみて捻くれている。

「一緒に見ますか」

私の言葉を受けて名頃さんは嬉しそうに隣へ腰を下ろしながら、

「へえ、何を……?」

分かっている事でさえ人の口から聞きたがるのも幼かった。

「霧が消えたら。名頃さんは新聞を取ってくる、私は花の水遣りを。終わったら朝ご飯です」
「君はすぐ人を働かすわあ。知らんふりして寝ていたら良かったかな」

そうぼやく様子を見てもやっぱり満更でもないようで、膝を抱えた私のすぐ横へぴったり体を寄せている。

 
20181013