いつものことだ、この女は。
やれグリフィンドールのサラに振られただのスリザリンのエマーソンに振られただの、つまるところ、奴の性癖は世間一般とは多少異なっているところがあった。
鼻水をすすりながら、わざわざ僕の所にまできて、一通り愚痴を言い切ったかと思えばまたほら、新しい恋をして去って、また振られて、それを繰り返してもうこの応酬を幾ばく重ねたか。
「お前ならその辺の男を引っ掛けて、それなりに幸せになれるだろうに」
「それなりの幸せはいらない」
「‥何もかも手に入れた人間が言う、傲慢な言葉だな」
そのたびに浴びせる言葉はいつだって変わりばえなく、棘がつき、きっと奴の病んだこころを抉りもしただろう。だが僕には、それさえおまえにはきっと必要で、これがいつかなにかに繋がるとでも思っていたのだ。
少なくとも正してやって、貶してやって、傷のついたところを放置して、癒えたころには居なくなるおまえを、僅かばかり憎らしく思ってる自分がいた。
次に来たときには、言ってやろうと思っているこの言葉は毎回毎回奥底に仕舞われ、活躍する場所もない。
だから、もうこれで終いにしよう。
「セブルス、振られた」
「‥性懲りもなく」
そう決めたときには、もうこころのあどけなさは消え、ただ、おまえに対する欲望とそれから誹謗と、僅かな秘められた愛情のみが渦巻いている。
「リリーに」
「当たり前だ」
「でも彼女優しかったよ、誰より。もう止めにしようかなって思えた」
その晴れやかな顔は、なんだ、僕が与えたものじゃなかった。
「そうか」
口をついて出た言葉は己とは相反するもので、何度となくシミュレーションしたものとも違って、無関心極まりないものだった。それを聞いておまえはどう思ったのだろう。聞きたくもない、知りたくもない。なぞる文字は頭になんか入ってこない。
「慰めてくれないの?」
だからこんな言葉を言うなんて思わなかった。
「慰め、なんて」
「いつも悪態ふっかけてくれたのに」
「それは慰めなんかじゃないだろう」
「けど、わたしにはいつだってセブルスが居たんだよね」
ありがとう、なんて言葉は久しぶりでそれが一体何に対してなのか、何の意味をもつのか、それすら忘れかけているほど僕とは程遠く、向けられた、けれどひたすらなまなこは変わらない。
だからこそ本を閉じて、初めておまえをまっすぐと見つめることができる。
「――僕なら、おまえにすぐ並の幸せなんかやらない」
「え、それ困る」
「飽き性だからな」
「ああ、なるほど」
だからその空気が読めないところも、実のところ、リリーにそう言われるまでおまえがわざと振られていたのも、そのように自分を思わせていただけだったのだということも、酷く理由もなくとりとめないことさえ全部、一生懸けておまえを理解していくつもりだ。
変わりばえのしない人生なんて詰まらないと、おまえに漏らさせる暇さえも与えさせない。
「‥傍に居てやる」
20110903
莉杜さまへ
リクエストありがとうございました。