城内の庭は荒れ果てているものの、季節の野の花は逞しく咲き誇っていた。
三つに分かれた葉を持つ白い花はティルナノグにも咲いていて、ラナたちと一緒にそれで首飾りを作ったな、と、デルムッドは不意に懐かしくなった。
座り込んで何本か摘み取ると爪で茎に穴を開け、別の茎を通す…そんな単純作業を何回か繰り返す内に、一つの輪っかになり…誰かに掛けるわけでもないのに…作っておいて思わず苦笑する。
「デルムッド兄さま?」
輪っかをその辺に放り投げようとしたデルムッドの背後から、柔らかい声が聞こえた。
「それを作っていたのですか?」
初めて兄妹として出会ってからまだ日も浅いせいか丁寧過ぎる響きもあるが、それもまた仕方ないとデルムッドは思っていた。
「そうだよ、ナンナ。よく作らされてた」
やたら数だけはこなしていて今でも手が覚えているんだとデルムッドが続けると、ナンナはクスッと微笑んだ。初めて見るかもしれない優しい微笑み。
「私もよくお母様やおと…フィンと作って…あ…」
デルムッドが殆ど覚えていない母と、彼女にとっては父親にも等しい存在とその思い出を口にしてしまったことに気付いて、そのまま黙り込んだナンナの頭に先ほどの輪っかがそっとのせられた。
「兄さま…」
「俺に遠慮することはないよ、ナンナ」
全然気にならない訳ではない。
顔もろくに覚えていない母と、主君の忘れ形見と共に母と妹を守ってきた男。
母とはどういう関係であったのか、母の、自分とナンナの父親への思いはどうだったのか…
何を考えても自分の憶測と希望にしか過ぎないと悟った時から、せめて妹には…ナンナには温かい思い出を大事にしてもらいたいとデルムッドは考えていた。
そうでもなければ、常に追っ手から逃れていたという苦しい日々に何の救いも無くなる。
「ナンナが作っていたのはこういうの?」
「…こういうのも作りましたけど、何本か纏めてから作ることも…」
「それを今度教えてもらおうかな」
「え?」
「凝った物の方が女の子に喜ばれるだろ?」
ニッと笑うデルムッドに、呆気にとられていたナンナもつられて笑い出した。
「兄さまったら…」
暖かな風が、似て非なる二つの金の髪と白い花を揺らしていった…。
個人的には、フィンとラケシスの間には男女の関係的なものは無かったと思いたいのですが…