*ずるいのは…
出会った頃から事ある度にベオウルフは私の前髪をくしゃくしゃと掻きあげる。
子供扱いされているようなその行為があまりにも馴れ馴れしくて嫌だった筈なのに、いつの間にか嫌ではなくなり、あの大きなゴツゴツとした手に触れられる度に胸が高鳴った…「髪をくしゃくしゃにするのは止めて!」と声をあらげて、怒ったフリをしていたけれど。
怒ったフリをする必要もつもりもなくなった今、ベオウルフの手は私の髪全体をゆっくりとすくことが多くなった。
その手つきは普段の大雑把な態度からは想像もつかないくらい優しくて、彼の手が私の首筋から後頭部に沿うように動くと鳥肌さえ立つ…もちろん嫌だと感じる鳥肌ではなくて――。
「…ずるい」
「あ?」
ベオウルフが私の顔を覗きこむ…私の髪の中に入れた手を耳から頬にかけなぞるように動かし…そんなことをされたら余計に…。
「やっぱりずるい」
「何のことだよ?」
さっぱりわからないといった風情で私の顔をじっと見るベオウルフの指は相変わらず頬と耳を往復し、時々耳たぶをいじったり、髪を耳に掛けたり…。
「ホントにずるい」
「だから何のことだよ」
無意識でしているなら、尚、タチが悪い。気付かせるのも癪だけど――。
「この手がずるいの」
頬を撫でる手を掴み、ごつごつした手のひらを唇でなぞる。
「でも嫌じゃないんだろ?」
やっとわかったと悪びれもせずに小憎らしくなるほど余裕の笑みを浮かべるベオウルフを上目遣いでにらみつけながら、私は彼の指をそっと甘噛みした。
●END●
『髪』をテーマにしたはずが、いつの間にか『手』になっちゃいました;しかも長い(苦笑)
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