*ベッドの上の小さな世界[杜若]
私1人には広過ぎるその上に、様々を広げるのが好きだった。
お気に入りの本。
お人形と、綺麗な刺繍がされたり、色取々に染められた、ハンカチーフの何枚か。
手習い途中の楽譜。
私の好きな物。
瞼が重くなるなら、そのまま、眠ってしまっても良かったし、ふわふわの感触には、無条件で安堵を感じた。
手を伸ばせば、すぐ傍にあったのだ。
ふ、と、目を覚ますと、1人になっていた。
何故か、心細い様な、胸に小さな石が落ちている様で、心許無い。
私は上体を起こし、傍らに置いていた羽織り物に袖を通すと、ベッドから滑り降りた。
真夜中、こんな風に目を覚ます事がある。
懐かしい夢にくるまれた後には、必ず、こうして私の心は揺らぐのだ。
今、私の生きる現実は、あの頃の私が夢見ていたものと、どれだけ違う事だろう。
ドアを閉める、軋んだ音がぎしぎしと響く。
私の足音が、ひたひたと続く。
静寂な、日中のさざめきが消え去った城内は暗く仄かな灯が、疎らに点るばかりだ。
慣れているはずの独り寝なのに、この心騒ぎ。(……誰か、いる)
目を凝らすと、真黒く、私よりも背丈のある影が1つ、視界の先に佇んでいるのが見えた。
それは、私の大切な世界だった。
終わりはないものだと、想像すらしなかった。
何時か、大人になれば、自然に思い出の中へ解け込んでいったはずの夢。
私の宝物。
彼にも、……私の様に、あったのだろうか。
暗く佇んでいた影が、私の脳裏に浮かぶ。
彼にも大切にしていた、忘れられない、眠れぬ夜を生む記憶があった。
それは、私のものと違うものだけれど、それでも私達は同じ気持ちを共有している。
(あの時は、何も、言葉に出来なかったけれど)
そんな予感が、私の心に残っていたのだ。
或いは、彼ならば、今の『私』を分かってくれるかもしれない。
私の寂しさ。
心細さ。
私の気持ちの、一欠片も残さずに。
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