*剣は語り、彼は歩き出す

「そういう血筋なのかもな」

槍の扱いはてんでなオレに、やや落胆混じりにオイフェさんが呟いた。

「母上はマスターの称号を得たのでしょ?」
「そうだが…君の中の何かが剣を選んだのだろうな」

槍の扱いが下手でも『騎士』にはなれる―ここで言う『騎士』とは単に馬に乗って戦う者だけでなく、誰かに、何かに仕える者という意味だが、オイフェさんはオレが『騎士』にはならないと見抜いているようだ。
セリス、様、にそういう器が無いわけではない―セリス『様』と呼び始めて数日経つが、なかなか呼び慣れない―オレにその気がないだけだ。

オレの父上は『自由騎士』…と言えば聞こえは良いが、特定の主を持たぬ、いわゆる『傭兵』であったらしい。
己の腕だけで日々の食い扶持を稼ぎ、戦地を渡り歩く…それがどんなに大変かは父上から託されたという剣を見ればよく分かる。剣は父上の生き方そのものを細かな傷跡として、柄に、鞘に、剣全体に刻んでいた。
その剣を見るにつけ、父上が見た世界はどんなものだろうと、どんな気持ちで日々を過ごしていたのだろうと思う。

そしてその父上と小国ながらも王女である母上がどうして結ばれたのか―平時ならまずあり得ないし、オレやまだ見ぬ妹もこの世には存在しないだろう。

ただ、オイフェさんやシャナン王子、エーディンさんから聞いた話を自分なりに解釈すれば、父上は母上の伴侶でありながら、『騎士』であり、『傭兵』であったのかもしれない。

オレはと言えば、今のところ心からの忠誠を誓えるような主も国も家もないし、縛られる契約もない。
『自由』であることが決して楽なことではないと剣は語っているが、どう生きようと楽な道など無い。

―いつか、何かを見つけられるのだろうか…父上のように。


“自分で決めたんなら、それでいいさ”



風にまぎれて、遠い記憶の中の声が聞こえたような気がした。




●END●




4000打キリリクで「デルがフリーナイトになった経緯やなる決意を…」ということでしたが、ラケのことがあまり語られていないですね;(色々盛り込もうと思ったらまとまりがつかなくなったので、結構バッサリ切ってます;)

人づてに聞いた話からロクに覚えてもいない両親のことを推察するのってどういう心境なのかなぁ〜と思いながら書いた話でもあります。時間的には6章以前、オイフェやレスターと諸国を巡る旅に出る前くらいです。

デルは無意識に父親寄りなのを希望ですv(言動とか…)

こういう色気のない話(笑)も書いていて楽しいです。
リクエストありがとうございました!(というか、少しでもリクエストに応えられたのかしら;)




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