*雨は雨

「静かな雨って優しい感じがしない?」

その問い掛けにベオウルフがやや眉をしかめ、「そうかぁ?」と返した時、ラケシスはいつもと少し違うと根拠もなく思った。いや、『感じた』。


表情と言葉はいつもと同じでも、受ける印象が違うのはどういうことだろう。
その理由が知りたくてラケシスはさらに問い掛ける。

「雨、嫌いなの?」

ずいぶんな切り口ではあったが、この男は回りくどい問い掛けだとはぐらかすことがあるのを、共に過ごすようになってから彼女は学んでいた。
窓の外では細かい雨がほとんど音も立てずに新緑をしっとりと濡らしている。

「嫌いっつーか、何かなぁ…」

歯切れが悪いのは言いたくないことなのかもしれないとラケシスが思い始めたころ…


「雨ン時に戦いを仕掛けたり仕掛けられたり、泥まみれになって追ったり追われたり…だから雨がどーたらなんてな…そんなとこだ」


最後はため息混じりに言うだけ言って、ベオウルフはラケシスと並んで腰掛けているソファーの背もたれに体を預け、天井を仰ぎ目を閉じた。


彼にとって雨は厄介ものであるだけでなく、過酷なことを経験してきた中でも特に辛い記憶が引き出されるのかもしれない。
『傭兵』としてのベオウルフを忘れていたわけではなかったのに…


「ま、雨が嫌いとかは人間の勝手だよな。ンなことしてるヤツが悪ぃンだし」


自嘲とも悟ったともとれる笑みをかたどった横顔でベオウルフが呟く。

その彼に、そうね、と相づちを打つのは憚られて…思いを共有出来るような経験をしていない自分に何が言える?

俯き黙り込む彼女の体が不意に引き寄せられ、驚きの声を上げる前にベオウルフと共にソファーに倒れ込んでいた。


「雨の日もこうやって過ごせるなら悪くないよな」

彼女の頭を撫でながらベオウルフが呟くのを彼の心音と共にラケシスは聞いていた…いつか自分が彼をこんな風に優しく包み込むことが出来るようにと願いながら……




●END●




いつもとはやや違う方向性で…と思いながらも結局は似たような話に…しかも長くなりました;これでも削ったんですけどね(え)
チャットで話題になった『ギャップ』をモチーフにしたつもりです(^^;)



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