もう満たされない
熱すぎる時もあれば、ぬるいを通り越して冷えている時もある。注がれては飲み干され、自分でも気付かぬ内に磨り減っていく。
やがて何かの拍子でひびが入り、割れて粉々になってしまうのだろう…そう思っていたのに、あの温もりは別だった。
体だけではなく、心の一番柔らかいところにまでしみてくる温かさ。
彼女が注ぐ温もりは溢れ、ややもすると溺れかけるが、それすらも心地よくて、足りなければすぐにまた求めた。

そんな日々は突然終わり、俺は空になりかけたカップを、心を持て余す。
ティースプーンを手にしたものの、何も混ぜていない紅茶をかき回すのも不毛な気がして、ソーサーの上にそっと置く。
僅かに残った紅茶を飲み干し、カップを置けば、ソーサーは静かに受け止めた。
テーブルの向こうではエレンが時折心配そうな目を俺に向けてくる。てめぇの心配でもしてろと言いたかったが、やはりテーブルの向こうから静かにこちらを窺うエルヴィンの表情から察するに、どうも俺の方が心配されるツラをしているらしい。

「…憲兵どもが来る前に着替えてくる」

どちらに言うでもなしに呟くと、俺は食堂の扉を開けた。
二人の視線の意味するところにも大体察しはつくが、あいつとのことをどう思われようと最早構わない。

どうせティーポットは空なのだから…あの温もりが注がれることも、満たされることもないのだから…


〈了〉

にこさん(@yamatoutusemi)から、「へいちょとペトラちゃんはティーポットとカップみたいに寄り添っていますよね」とお聞きして、それからのやり取りでこれまたにこさんから、「エレンがティースプーン、団長がソーサー」みたいなことをお聞きして、何となくモヤモヤとした妄想煙(笑)を形にしたら、何か抽象的な、薄暗い話に…
殆どのアイデアはにこさんからですので!私は尾ひれ(蛇足?;)をつけて文章にしただけとも…にこ姐さん、ありがとうございます!

※サイト掲載にあたり、最後の方を少し手直ししました。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -