※神子攻めです注意!








「今日と言う今日は許しません」


久々の薬師以外の仕事に肩を揉みつつ、ただいまと門扉を潜るといつも全開の笑顔で迎えてくれるはずの妻が修羅の顔で仁王立ちしていた。


「…望美、さん?」


草履さえ履いたまま、何の気構えもしていなかったので正直ぎょっとしたが――望美さんの隠し事が出来ないたちと猪突猛進さから出会い頭に詰め寄られる経験はなきにしもあらずなので僕は一拍ぱちりと瞬くと気を切り替え、渋面そのものな表情の望美さんに微笑んだ。


「ただいま帰りました。今日はお帰りのきすはしてくれないんですか?寂しいな」

「新婚夫婦のお約束だからっておはようからお休みまでやたらちゅっちゅっ弁慶さんがやってくるだけでそんな習慣私にはありませんし、そもそもそんなのどうだって良いんです!」


瞬時に巡ったあれやこれやにとりあえず怒りの緩和を謀るがいやに据わった目の望美さんにすげなく切って捨てられる。

…これは相当ですね。

一体望美さんの逆鱗にどの行動が触れてしまったのかと頭を巡らせていると思いの外強い力でぐいっと手を引かれ、板の間に上がった。


「――っ、望美さん?」


土の付いた草履が乗り上げないように慌てて脱ぎ捨て、望美に手土産だと渡された菓子が崩れないように玄関先にそっと落とす。

何かがおかしい。幾ら苛々していると言っても優しくて温厚な望美さんがこんな当たるような事をするはずがない。

――と眉を潜めかけたが不意に空気中に僅かに香る酒気が鼻をつき、全てを理解した。


ああ昼間から、君は。





*****




最近馴染みの患者さんに貰った果実酒はとても甘味が強く、たまにたしなむ分には良いが毎日飲むとなると少しくどいので残りは料理に使って下さいねと渡したのが昨日の事。

寝室からは厨の様子は伺えないがおおよその察しは付く。かなり飲みやすい割にきつい酒だから使う前に味を試すなら舌に湿らすくらいでないと、と言うのを忘れていた。


「んっ…、ふ…」


板の間に一畳敷かれた畳の上で望美さんのその舌に残った微かな杏子の香りを楽しむ。

僕に無理矢理…って膨れていたのに結局やってくれるんですね。

連れ込まれた勢いのまま畳に押し倒されたのには流石に驚かされたがいつになく積極的な妻に現状に翻弄されつつもふっと口角が上がる。

ここに至るまでの経緯は兎も角、普段恥ずかしがり屋の妻からの口付けをすげなくするはずもない。折角なのだからと腰に手を回し、恋仲を彷彿とさせるような雰囲気を堪能していると暫くして望美さんは気が済んだのか口を離した。

抵抗らしい抵抗をしない僕はのしかかられたまま、むくっと背を起こした望美さんの動向を見つめた。

至近距離で見る碧の瞳は濁りつつ据わっているが普段ない行動によって僕に一泡吹かせられたと思っているのだろう、どこか得意気だ。

…実際確かに驚きはしたが途中から完全に僕も楽しんでいたのだけれどその辺りはどうでもいいらしい。自分のやりたい事しか見えていない、酔っ払いにはよくある事だ。

この間も九郎がすっかり泥酔して景時の杯に九郎が注いでは接ぎ注いでは接ぎを繰り返していた。景時は景時で愚痴を溢しながら泣き出すし…何事にも節度は大切だ。


「弁慶さん、また九郎さんに頼まれたからって危ない仕事受けてますよね。それも一個や二個じゃない…」


大宴会のなれの果てを思い出し、遠い目をしていた僕は望美さんの絞り出すような声音にはっと意識を戻した。


「……ああ、何を怒ってるかと思えばそれですか。大したものじゃありませんよ。ちょっとした筋に探りを入れているだけです」


九郎に言われたからと言うのもあるが個人的に気になる事に軍師として召集に応える度、密偵として少し動いていた。

密偵と言っても敵陣に乗り込むような危険度の高いものではなく、聞き込みみたいなもので露見さえしなければどうと言う事もない。ただ深部までは流石に入れないから得られる情報も核心的なものにはほど遠いが…。


「っ、何で!もうそう言うのやらないって言ってくれたじゃないですかっ」

「僕自身が動くものはやってませんよ。…君がそんな顔をする必要は、」


肉迫する望美さんに視線を伏せ、苦々しく後ろめたい感情が膨らむのを防ぐ。

本当にちょっとしたものなのだが確かに一回受けたのが癖になってるのは確かだ。薬師との兼業なので余り深追いしなければならないようなものは九郎に指示するだけで返しているのだが――望美さんには黙っているようにとあれほど…。


「関係無い、なんて言わせませんよ!幾ら九郎さんを絞っても何も吐かなくて代わりに景時さんをぎゅうぎゅうにしたら弁慶さん、神子関連の事も色々手を回してるって!」

「ああ」


望美さんに締め上げられている景時の姿が瞬時に沸き上がり、仕方ないかと息を吐く。

察しが良い景時にははっきりと念を押すまでもないと明言していないし、よしんば釘を刺しても事が事だけに余計な気を回して漏らしていた可能性もある。

まぁ後で景時には仕返…お礼をしておきましょう。


「僕は可愛い奥さんを守るためなら何でもしたいんですよ」

「でもっ…、弁慶さんが関わらなくてもな良い事だってあるでしょう?」

「それはそうですが…他人に全権を託す任のはやはり不安です。ましてや大事な君の事だ。万に一があっては困りますからね」


分かって下さいねと頭を撫でると皺が少し和らいだが今度はむっつりと考え込み、黙ってしまった。


「…弁慶さんの言葉は多分正しいと思います。でも危険な事はしないで欲しいんです」

「それは」

「信用出来る人が一人もいない…なんて言わないで下さいね?…弁慶さん」


それはそうなのだがそう言われてはいと素直に頷くくらいなら初めから人に任せている。無言を貫き、困ったように笑いかけると望美さんの眉間に再び濃い皺が刻まれた。

ああ、これは駄目かも知れないな。

以前こっそり九郎の代わりに特に力のある貴族とのやり取りを買って出ていた時、交わした文が望美さんの目に触れて大事になった事があった。都合の悪い事にその内容が僕を介して鎌倉殿に私の心付けを渡して欲しいと言うものであわよくば僕にも袖の下を…と非常に分かりやすく膿の出た物でその文を手にした望美さんも似たような渋面を作っていた。

理解は出来るけど納得は出来ないと言った顔。こうなると望美さんは意外に頑固で僕の好きにさせてくれると言う事はまずない。


「……分かりました。弁慶さんならそう言うと思ってました」

「望美さん」


おや、と正直虚を突かれていると御簾が下がって明かりを灯していない室内は夕暮れ前でも少し薄暗く、その中で望美さんの目が鋭く光った気がした。


「でも今日は絶対はいって言わせてみせます」
「望美さん?…、っ!」


少し立てた膝の裾から冷気が忍びこんできた事に戸惑う暇もなく、ひやりとした細い指がするりと太股、下帯と進入を果たし、息を飲んだ。

まさかとは思うが断れば潰す――と言われれば流石に頷くしかないが子供も得ない内から夫のそれを再起不能にするとは考えづらい。それに何より微かに動く指先が雰囲気も相まってその可能性を否定している。


「…は…、望美、さん…?」

「私に何かをさせたい時、弁慶さんよくやりますよね。弁慶さんに出来るなら私にも出来ます。やれないはやらない、なんですよぅ」


酔いが回って来たのか一段と視線を虚ろにして身を屈め、首筋に唇を寄せた。生暖かい感触がちゅっぺちゃっ、と吸い付き舐め始め、僕は今自分が置かれている状況を初めて理解した。


「っっ」


――本気で?

望美さんを襲う事は日常茶飯事でも襲われる事は全く皆無だ。

女性としてはそれが正しいあり方だし、性に積極的だとはしたないとするのがごく一般的な見解だろう。けれど僕と望美さんは夫婦なのだし、もう一緒になって暫くだ。たまには彼女からも求めて欲しいと常々思っていたので一種の感動すら僕は覚えた。


「弁慶さん。気持ちいい…?」


最早僕の体温で温まってしまった小さく柔らかな手は要領を得たのか初めの覚束なさは鳴りを潜めている。

愛撫としてはまだまだ拙いが心から想う女性に促されている事と暫く忙しくてご無沙汰だった事にそれは最早ゆるりと立ち上がり始めていた。


「望美さん…」


上下する喉仏が珍しいのか顎、喉仏と丹念に舐めていく望美さんの合わせをそっと開く。褥を幾度も共にした結果だろう、出会った当初より確実に膨らんだその乳房を両手で包もうと手を伸ばした、が――。


「めっ」


彼女の左手がお目当ての物を隠してしまい、それと同時にぎゅっと陰部を握り締めた。


「っ、の、望美さん!爪がっ…」

「触りたかったらはいって言って下さい。危険な仕事はもう受けないってここできちんと誓って下さい。今度嘘ついたらここで他の男の人に乗っちゃいますから」


酔い、覚束ないはずの目でじとりと睨まれて触ろうとした手を止める。

…幾ら口約束では信用ならないからって代価に出す例えがあんまりだ。


「酷いな、望美さん。僕と言う者が有りながら浮気するんですか?」

「弁慶さんこそ、また嘘つくつもりなんですか?」

「そんなつもりは…、!」


さてどう説き伏せようかと話ながら考えを纏めていると萎えかけたそれのきつく握り爪を立てた部分を慰めるように撫でられて言葉を切った。


「っ、望美さん…ぁ…話はまだっ…」


さっきよりも撫でる範囲が広く、より扱くように手を滑らせられるとみるみる内に脱力していたものが力を取り戻す。

望美さんの手は小さくて指が細い。近頃渡し続け、かつ僕自身で水仕事に荒れる望美さんの手に軟膏を塗り込んでいるお陰で手荒れする事なく、滑らかな肌は吸い付くようでかなり気持ち良い。

手淫自体は僕の記憶が確かなら数回しか試みた事がないはずの望美さんの手管は拙い。しかし心より想う相手が自分の快感を引き出そうと苦心する様はそれを補って余りある。


「はぁっ…、ああ…」


自然と手の動きに合わせ、ゆるゆると腰が動いたのが気になったのか。

僅かに首を傾げた望美さんは何を思ったのか僕の隣、腰の辺りから移動し、僕に股がった。そして何やらもぞもぞ身動きしたと思ったら一層身を落とし…ぬるりと生暖かい物が自身に当たった。


「ぐっ…うぅ」


僕を持ったまま、彼女は雛先に押し当てるように腰を擦り付けた。

手淫とは違って弱々しい刺激だが想い人のそこに直に触れ合っていると言う事実は男として比べ物にならない快感だ。尚かつ、まるで僕自身を使って自慰をするような状況も堪らない。


「あっ、あん」

「はぁ…望美さん、もっと…っ」


彼女の手と秘部に挟まれてこの世の極楽を味わった僕は遠慮なく、先程よりも腰を振った。次第にぬちゃぬちゃと耳に届くほどの水音に更に興奮が煽られて思わず腹筋に力を込めて起き上がると押し倒し返す。


「きゃっ」

「望美さん!」


彼女の愛液ですっかり濡れそぼったそれをそこへ入れようと添え、亀頭がずぶっと埋まる。

目眩のする恍惚にそのまま腰を押し付けかけ――。

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