ドゴッ!


思いっきり肩を足で蹴られ、流石に進行を止めた。


「っ、…望美さん、流石に酷いですよ」

「約束出来ない悪い人にはご褒美も当然ありません。めって私言いましたもん。したかったら約、束!」


弱冠引き続いて得意げな表情で息巻く望美さんだがその姿は乱れていて色っぽい。僕が高ぶっているように望美さんもかなり顔が赤く、辛そうに呼吸を乱している。

しかしながら今の蹴りで少し我に返った僕は望美さんの言う約束をしてまで快楽を得る気はない。

今の状況はかなり惜しいが折角、潜入させていた密偵が良い所まで行って――。

何も言わない僕に眉尻を上げた望美さんはある種の決意を瞳に宿した。


「しぶとい…じゃあー、これでどうですか」


乱れた裾を軽く捲り、白く美しい足を晒したと思ったらその隙間に手が差し込まれ、そのまま股間へ――。


「のぞっ…!?」

「あ、濡れ…んん、あっ、あん…弁慶さん…」


くちゅくちゅと言う濡れた音が互いの繋がっている場所から響く。しかし腰は動いておらず、細やかな水音はするかも知れないがそれがこんなにもはっきりと聞こえるとは思えない。

僕の先を僅かにに入れたまま、自分の秘部に手をまさぐって喘ぐ彼女に焼けたように頭が真っ白になる。


「のぞ、」

「弁慶さぁん…あ、あっ、きもち」


ぶつ。

僕を銜えたまま自慰をする望美さんに僕は確かに何かが切れた音を聞いた。

それは理性の糸だったのかも知れないし、
我慢の限界だったのかも知れない。


「――望美さんっ!」

「ええっ、きゃあ!――ああっ」


彼女の足を掴み、体勢を変えてのしかかると強引に入りかけていたそれを押し入れて逸るまま、滅茶苦茶に腰を振った。


「やだっ、ずるい、約束してない」

「あんな姿を見せられて一秒でも待てる訳ないでしょう!ああっ…望美さん…!」

「ずるい、ずるい。弁慶さんの馬鹿」


じたばたとする望美さんを抱えて痴態に煽られた欲望を消化するべく動いていると散々焦らされたせいかかなり早めに限界が見え、眉をしかめた。

普段なら彼女が達する前に出すなど論外だがまた先ほどのように蹴られておあずけ、などと言う事になっては敵わないと堪えるのを止めた。


「っ…んく、うぅ…!――はぁっ、あ…」

「んっ、あ、ぁ…一杯、中に…」


腰が溶けそうな快感の中でぞくぞくした痺れが背筋から頭にかけて突き抜け、それに追随するようにどくどくと白濁が吹き出した。

射精された衝撃に流石に暴れるのを忘れて惚ける望美さんに早かった事の許しを乞うため、出し切り少しだけ萎えた一物をずるりと彼女から引き抜いた。





*****





ふ、と目が開いた瞬間に感じたのは込み上げるような吐き気。そしてそれが何か考える前に襲い掛かったのは反響するような頭痛だった。


「な、何…ぅ、気持ち悪…み、水――いったあ!」


いつの間に寝ていたのか布団代わりの単衣を跳ね除けて起きようとすると余りの腰の痛みに四つん這いに倒れ伏した。

満 身 創 痍 。

正直何でこうなったのかは霞がかった記憶の中曖昧だがこの腰が抜けたように身動きが出来ない痛みには覚えがある。――だが今一番のっぴきならないのは吐き気だ。


「は、吐く…トイレ、洗面器、ゲ○袋…」


ずりずりと腕の力だけで廊下に這い寄るがふとこのまま外に出れば爽やかな朝の木々の香りで吐いてしまいそうだとその場に丸まった。

はぁはぁと治まるのを待っていると誰かに背中を擦られる感覚がした。


「大丈夫ですか?二日酔いでしょうから吐けるようなら吐いてしまった方がいいですよ」

「べ、弁慶さん…」


涙目になる私を慰めるように手を動かし、桶を差し出してくれたが恋する乙女の一線として断固首を振ると心配そうにそうですかと言うと私を僅かに起き上がらせた。

そしていつも使っている湯飲みを私の口元に持ってくる。


「水です。飲めますか?今はどんな些細な臭いも駄目でしょうから薬はもう少し後にしましょうね」


そうして緩く微笑む弁慶さんに後光がさして見えた。薬師の嫁で良かったとこんなにも感じたのは初めてだ。その原因が二日酔いと言うのはかなり情けないが。

冷たい水が食道を通り、胃の形が分かるほど身体を伝うように広がるとほんの少し嘔吐感がましになったような気がしてほっと息を吐いた。


「僕の膝を貸しますからそのまま横になって。その分なら頭も痛いでしょう?」

「はい…」


普段なら弁慶さんに膝枕して貰うなんて有り得ないが今はそんな事を言っている場合でもない。返事もそこそこに胡座をかいた弁慶さんの太股に頭を乗せると引き続きさすさすと背中を擦られると不快感が徐々に薄らぐ。


「以前君に渡した杏子を漬け込んだ酒、口当たりが良いから余り感じないかもしれませんがあれはかなりきつい酒なんですよ。舐めるくらいなら問題ないでしょうが呑み慣れてない君が量を取るとこうなってしまうようですね」


独り言のように私に語りかける弁慶さんに朧気な昨日の記憶を引き寄せる。

晩御飯の用意をしようと厨に立ち、今日は何にしようかなぁなんて考えていた私は弁慶さんに渡されたお酒の存在を思い出した。お酒だから足が早いと言う訳ではないだろうが貰ったからには使ってみたい。そう思い、壺の封を開けてみれば思ってたよりも良い匂いで味見してみればほわっと甘くて――そこから覚えていない。

何となくさっき使った湯飲みと同じくらいの大きさの器にそれを汲んで水を足したような気がするから多分水割り一杯くらい飲んだのだろう。それでこうならもう二度とお酒は飲むまい、料理に使う時も蒸発して消えてなくなるくらいアルコールを飛ばそうと私は心に誓った。


「弁慶さん、ごめんなさい…」

「謝らないで下さい。渡した時に注意が足らなかった僕も悪かったんですから。…それに良かった」

「?」

「かなり君に心配と言うか我慢を僕は強いていたみたいですからね。本音が聞けて良かった」


苦々しく、それでいて反省していると言う風な弁慶さんの口振りに私は昨日何かしたのかと疑問を抱き、弁慶さんに問い掛けようとしたが続く言葉にぴたりと口をつぐんだ。


「君があそこまでするなんて…相当普段思い悩ませてしまったのかな。すみません、望美さん。今進めている件が終わったら九郎に頼まれていた仕事は極力受けないようにしますから…安心して下さいね」


九郎さんの…と言うとこの間景時さんから何とか聞き出した弁慶さんの危ない仕事の事だろうか。確かにいつ問い詰めようかと思っていたが…頭の堅い弁慶さんが考えを改めるなんて珍しい。と、言うか――。


「あそこまでって…」

「ええ、正直驚きましたが…君にされる事なら僕は何でも嬉しいので気にしなくていいですよ。嫌いになんてなりませんから」


そう言って背中を擦る手を頭の方へ移動させ、少しの間よしよしと撫でる弁慶さんに私は脂汗が出る思いがした。

この頭痛と吐き気の原因は分かった。けれどこの弁慶さんが夜張り切ると必ず訪れる痛みに良く似た腰の鈍痛は、…そして考えたくもないがその――あそこまでと言うのは私がその場でもしやとんでもないあれやこれやしてしまったのでは――。

麗らかな早朝、妻を心配させるからと危険な仕事から手を引くと言ってくれた夫の膝枕で優しく介抱され、私は記憶がないのだからここは全てを闇へ葬ってただ喜び、幸せに浸るべきだろうかと青くなるまま考えた。


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