薄桃色の唇が少し開き、その間から赤く小さな舌が躊躇いがちに伸ばされる。


「……」


――触れるか触れないか。

微妙な位置で進退を繰り返す行為は駆け引きとしては中々だが今彼女に僕を焦らして得るものがあると思えない。

そこに触れる熱を持った吐息が悩ましくて思わず僕は添えた手に力を込めて彼女を引き寄せた。


「ん、ぐっ」


萎えたなりに向きが良かったのか喉の奥まで深く入り、苦しそうに呻いた望美さんの口内の熱さに背筋をぶるりと震わせる。

心の準備も無く、呼吸を奪われると流石に苦しいのだろう。必死に僕の腹に手を付いて押し返そうとするがそれには応えず、暫く柔らかな感触を楽しむように軽く腰を動かした。


「べ、け…ぅっ、ん、んん…っ」


呻く声を無視して暫く腰を揺らしていたが
嵐が過ぎ去るのを待つように抵抗は次第に緩まり、多少つまらなくなった僕はあっさり彼女の口を犯すのを止めた。

そうして雄が唇から滑り落ちる頃には望美さんの顔はとても平時とは程遠く、淫靡に艶めいていた。


「君が勿体ぶるからですよ。…さぁ、続きはお願いしますね」

「…はい」


無理な口淫ですっかり汚れてしまった口元を少しだけ拭うと荒く乱れる呼吸を整えて僕のものに唇を付けた。

それなりに回数はこなしているもののまだまだ舌技は拙く、急激に高みに押し上げられるようなものではない。

――震えていますね。

気丈に振る舞ってはいるのだけれどそこはやはり純情な少女。ゆっくりだが丁寧に舐めるやり方をを褒めるついでに先ほどの行為を詫びるかのように優しく頭を撫でた。


「…ふ」


――望美さんは僕にとって随分都合の良い存在だ。文字通り、降って湧いた幸運と言わざるを得ない。

本来なら手詰まり感のあった怨霊の浄化を担ってくれるだけでも十分恩の字だった。

神子と言う、それこそ九郎の言ったようにおとぎ話の中の人物が現れたと思う者も少なくないだろう。未知の恐怖から守られて下がる一方だった兵の士気も実際段違いに皆、追い風を感じている。それほどに曖昧な象徴ではない神の力は凄まじい。

それなのに彼女は更に剣を取り、戦に御身を落とした。

怨霊の浄化のみで源氏に与しなくともその実績と名前だけでも十分だったのに、だ。


「良い子ですね…望美さん。僕は君をとても大事に想っていますよ」

「ん…くふ…」


顔に掛かる髪を後ろに撫で付けてやれば、喉に当たるほど深く銜え込んでいた彼女は何か言いたげに僕を見上げた。

――彼女は賢い女性だ。

僕の言葉の暗喩する意味に気付いているのだろう。――それでも尚僕の手の平で踊り続けるとはやはり君は聡くも…愚かしい。


「…もう結構ですよ」


僕は静かに口淫からの解放を告げると彼女の頭をそっと引いた。僕の先走りと望美さんの涎で一瞬それとの間に糸が繋がったが彼女が舌を口内に戻した事で切れ、顎を伝う。

口元を汚し、乱れた格好で息を荒げる彼女を僕がこうしたと思うと決して褒められたものではない暗い劣情が酷く疼く。

腰を抜かしたようにぺたりと座り込む彼女に合わせるように再び僕も腰を下ろすと薄い桃色の上衣に手を掛け、床に落とした。

途端に現れる彼女の美しい裸体に目を細めると心許なさそうに身を縮める望美さんの前で僕も軽く着物を脱ぐ。


「わっ」


彼女を産まれたままの姿まで剥く事はあっても僕は着衣している事が殆どなので見慣れないのか慌てた様子で望美さんはぱっと顔を逸らした。

今の今まで何をしていたのか。

彼女の羞恥の感じ所に苦笑いを漏らすとその細腰を引き寄せて膝に乗せると今度は彼女の中に慰めて貰うべくそれを押し当てた。


「っ…弁慶、さ」


僕の手淫、望美さんの口淫でお互いに解す必要がないほど濡れていたが最近破瓜したばかりの中は未だに異物の侵入を強く拒む。解せるだけ解しておいて損はない。

僕は突き上げてくる衝動を宥め、入れずにそこで雄に馴らした。


「…あ、あぁ、んぅ…」


ゆっくり、時に強く。

女性の最も感じる場所をそれで撫でるように擦ると初めは過敏に反応を返すだけだった望美さんも僕の動きに合わせて腰を揺らめかせた。


「気持ち良いですか?望美さん。…今日はずっとこうしていましょうか」

「そ、そんな…の…、はぁっ、あぁ」


暗に生殺しのままでの行為の終了を仄めかすとすっかり虚ろな眼差しの望美さんが入口にそれをぐにっと押し付けた。角度が悪く、そのまま中に入る訳ではなかったが同義の意味に口端を上げる。


「――おねだりは口で。言葉でねだってくれないと駄目ですよ」


そう言い、核心的な刺激は何も与えずそこから雄を遠ざけた。

歪んだ笑顔で居るだろう僕を望美さんは泣きそうな目で見ている。それはそうだろう。この“彼女の望んだ”行為は望美さんの本意ではなく、“欲しくて堪らない”ものは好きでも何でもない男の一物なのだから。

欲望に流されて僕に無理矢理事を進められるならこれまでと変わらない。けれど煽られた本能のまま男を受けようと身体を開くならそれは最早強姦でも何でもない。

その事実は彼女を酷く打ちのめすだろう。

けれど彼女には言って貰わなくてはならない。清らかで神に愛された綺麗な彼女は僕を慰めてくれる――玩具なのだと。


「べ、弁慶さんが…」

「僕が?」

「弁慶さんが…、あの、…ほ、ほ…」


案の定綺麗な緑の瞳を潤ませて散々迷ってどもりにどもった挙げ句、僕を求める答えを蚊の鳴くような声で口にした。


「…僕の何が欲しいんですか?それはどこに?どうやって?――きちんと言ってくれないと分かりません」

「そ、それは…」


生温い言葉でお茶を濁そうとする望美さんを許さず、更に追求すると更に泣きそうになりながら返答が返って来て僕は彼女を抱き寄せた。


「君は…本当に可愛いですね。良い子です…」

「んっ」


今日初めての口付けを深く交わす。先ほど僕のものを口に含んだせいで味は決して美味しいものでは無かったが、仕方ない。ちゅっちゅっと最後に二、三回啄むととろんとしている望美さんの中に己を進めた。


「ぁ…弁慶さん、っんあぁ…!」


鼻に掛かるような甘い声を聞きながらの行為は相変わらず気持ち良い。特に望美さんの中はきつい癖に柔らかく、しかも絞り取るように蠢いてくるから堪らない。

侵入の喘ぎを口付けで飲み込みながら本能に任せ、根元まで押し込む。

――正直向かい合うこのやり方はかなり奥に到達出来ると言う点を除いて相手が余程の積極性と技巧を持ち合わせていない限り、最後まで致すには不十分で余り長くない好きではない。始終密着出来るのは良いのだが…、どうしたものかと彼女に埋めたまま臀部に鷲掴み、上下に揺さぶりながら視線を巡らせた。


「んんっ、ふ…ぁん、あっ…?」

「背中、なるべく着かないようにしますからね」


棘がいつ刺さってもおかしくない床に脱いだ服をさっと広げる。

そしてその上を僅かに踏み、彼女を乗せるように移動させると支え持っていた臀部から腰に手を回して膝に乗せたままの彼女をそっと押した。


「やっ、何…」

「大丈夫ですから、そのまま…。そう、両手を着いて。あぁ、僕は跨いだままでいいですからね」


不意に肩を押され、驚き僕にしがみつきつつも咄嗟に後ろ手をついた望美さんを安心させるように促す。望美さんは不安げに瞳を揺らしたが大丈夫だとにこりと微笑んでやると恐る恐る僕から離れた。

重心が移動した事と支えが二対になった事で増した安定感に満足し、ゆるゆるとした刺激にすっかり焦れていたた雄へ応えるべく腰を激しく動かした。


「――ふあっ、あぁ!だ、だめ、っ…あん、は、だ、めあああっ!ああん!」

「っ良いですよ、望美さん」


後ろ手を着き、見慣れた外套に皺を作りながら涙を流す望美さんを見てると神子も所詮女なのだなと酷薄な気持ちになる。

人に身をやつした彼女の龍は今の状況をどう思うだろうか。案外行為より、彼女を悪し様に扱っている事に怒るかも知れない。

薄ぼんやりした灯籠の灯りの中、重なる影は背徳に塗れていてこれが決してお綺麗な行為でない事をまざまざと見せ付ける示。…ならば、相思相愛でありさえすれば神子と身体を重ねても清浄で居られるのかと考えて――苦笑する。

もしもに思いを馳せるなど…馬鹿げている。

瞬時に湧いた寂寥感にも似た胸の空洞を誤魔化すように一層彼女を深く抉った。


「奥がっ…好きでしょう?」


免罪符のように囁くと堪えられなくなったのか、僕と繋がりながらもがくっと望美さんは肘を折った。

ぐじゅぐじゅとお互いの体液に塗れて熱を上げれば何もかもを投げ捨てても良い程の波に飲まれる。


「っ…は、…あ、っい…」


頻繁に漏れる荒い吐息と押さえられない喘ぎに己の限界を見る。眼下では僕に滅茶苦茶にされて可哀想なくらい乱れた望美さんがいたがそれすらも今は煽られる材料以外の何物でもない。

文字通り蹂躙し切った僕は仕上げとばかりに突き上げれば最早隠せないほど大きな摩擦音になった繋がる音が望美さんの嬌声と共に大きく、切羽詰まったものに変わる。


「ひあっ、あんっ、あぁ――っああああ!」

「っ…、望美さん、いいっ…」

「っっ――!!」


最早僕の思うままに突き上げられている望美さんを一際強く貫くと身体を震わせ、声を無くした。

僕もきゅうっと絞まる中に引きずられるようにして射精すると中々萎えない一物を何度も奥に押し込んだ。

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