はっきりしている事があるとするならばそれは彼女に何も罪はないと言う事だろう。

僕は神に求められ、身も心も染みの一つさえない彼女が眩しくて…。屈託のない笑顔が憎かった。

積もり重なる罪は自らが歩いてきた道の軌跡であり、誰かに責任を押し付けられるものではない。この背負う重さや痛む良心の呵責は全てその瞬間の選択が招いた結果なのだから。

けれど。

罪を得る何かが僕にはあって彼女にはない。――それは僕が僕である限り必然で切っても切れないものかも知れないが、僕は…。

…言い掛かりも甚だしく、感情の矛先を向けるのはお門違いだと分かっている。それでも僕は黒く蟠る靄を押さえる事が出来なかった。

――彼女は綺麗過ぎる。

だから僕はその白から目を逸らしたくて遮りたくて――無垢な身体を汚した。

泣きじゃくる顔を見て可哀相だと思う反面、…胸の内に巣食うどうしようもない滾りがほんの少し晴れたのも事実で――曇りなく笑う屈託のない彼女を崩せたと自分の口元が醜く歪んだのが分かった。

…酷い男でしょう、僕は。

黒龍の神子が男を知っても尚神子であるように、神子が人の物差しで計れない資格を得た上での使者を指す事は明らかだ。彼女の心が染まった時、初めて彼女は神域から落とされるのだろうと思う。

例え、朔殿の夫が例外で捧げる対象本人であったからとしても――。…正直、僕の行為で神の一部を切り取れるならそれも面白いと思っていた。

ボロボロ崩れる鱗と同じ。何て脆い…。

それに年相応でありながらどこか未成熟さを感じさせる身体は余りに危うく、無防備で――自らの手で花開いてみたい、暴いてしまいたいと…建前に隠された男の身勝手な性の声にも確かに僕は耳を傾けていた。

…今、思う。

きっと彼女をもっと早く、女性として深く愛していたならば…僕は彼女を抱く事は出来なかっただろうと。





*****





密事は穏やかに、しかし途切れる事なく続けられていた。

彼女が嫌がろうとも関係ない。心優しい白龍の神子は身代わりを良しとはせず、同じ龍の片割れを守ろうと必死に僕に付いて来ようとしている。朔殿でも…と言う脅しは実際ただの虚言なのだが――健気なものだ。同じ旗本の仲間の妹、それも一番鎌倉殿に懇意である景時の恨みを買おうとするなんて少し考えれば分かりそうだが…まぁ神域に手を出すほどだ、常識を当てはめろと言う方が間違ってるのかも知れない。

口に入れた指に絡まる柔らかな舌を堪能する。まだまだ拙いがそれなりに…一生懸命舐める彼女に嗜虐心が満たされていく。


「ん…ふ、っ、ん」


つぅ、と生暖かな感触が手の平を伝う。嚥下する為に必要な舌がその為にまともに使えず、溜まった涎が彼女の薄桃色の唇から溢れていく。気持ち悪いのか苦しいのかぎゅっと瞳を閉じ、眉を寄せる望美さんに僕はくすくすと笑って後ろから耳朶を舐めた。


「ほら…しっかり舐めて下さい。よく濡らさないと痛い思いをするのは君ですよ?」


泣きそうな顔。計算でやっているなら褒めたい所ですがまぁ無意識でしょうね。

右手で口内を支配し、重ねの隙間から左手を侵入させてやわやわと乳房を堪能する。普段晒されていない肌はきめ細かい彼女の素肌の中でも更に滑らかだ。

――くすりと意識せずに笑いが零れた。

幼い子供に教えるように何度も何度も植え付けた快感は流石に清らかな御身と言えど忘れられないようだ。

ぴったりと背に貼り付き密着しているが肌に舌を這わせたり、乳房を愛撫するばかりで確信的な刺激は何も施さない僕に焦れたのだろう、微かにゆるゆると割り入った僕の足に下肢を擦り付けている。

隔てるのは僕の袴と望美さんの短い袴の中の下着一枚でこちらの興奮もそれなりに煽ったがそこは表には出さなかった。


「んっ、…んんぅ」

「ああ、腰を振って――。…いやらしい人ですね。そんなに早く塞いで欲しいんですか?」

「うぅ」


望美さんの恥態は可愛いか可愛くないかで言えば勿論可愛い。ここまで男の暗い欲望を満たせるのかと思うほど彼女は上手く僕を煽ってくれる。


「…けれど、まだ駄目ですよ。折角濡らしたのだからこれを先に入れないと、ね」


彼女の淫らな様にすっかりその気にはなっていたがただすぐに埋めてしまってはつまらない。羞恥に歪む顔は僕の中から沸き上がるような悦楽を引き出す。――それが得たかった。


「は…」


べたべたに濡れた指二本を望美さんの口から抜くと下着を少しずらし、それをゆっくり埋めていく。

相変わらず、熱い。体温が高いのだろうか、望美さんの中はいつも焼けつくように熱かった。


「っ、あ、ああぁ…!」

「……下の口からの涎の方が多いじゃあないですか。これじゃあ濡らした意味ない。指を舐めていただけなのに…何故こんなに濡れているんでしょうか…?ねぇ、望美さん」

「っ…。それは、だって――弁慶さんが色々触ったから、んんっ!」

「人の所為ですか。…いけませんよ」


細やかな強請は可愛らしいが今はそれを許容し、目を瞑ってあげるような気分じゃない。中をぐちゅぐちゅ荒らしていた手を一旦抜き、入れる指を変えると濡れた指で赤く腫れた雛先を音が鳴る錯覚を覚えるほどぎゅっときつく摘まんだ。


「いっ…!嫌っ、痛い!」

「違うでしょう?ここがこんなにずぶ濡れなのは君の身体が淫らだからですよ。早くここを一杯擦って欲しかったからこんなに、ここも…大きくなってるんでしょう?」

「ち、違…」


ただでさえ高められて真っ赤になった顔でふるふると首を横に振る望美さん。長い髪が頬に掛かって覆い被さっていても後ろからでは窺い辛い。可愛い顔がよく見えるように空いた手で耳に髪を掛けてやり、雛先に立てていた爪を離して痕を撫でるように優しく擦ると鼻にかかるような嬌声が細くのび、こぽこぽと溢れ始めた愛液に指の滑りが良くなる。


「くぅ…、あっ、あん、はっ」


そのまま刺激を続けていると艶かしい、何かを耐える声が押さえきれず跳ね始める。


「……舐めてあげましょうか?」

「!嫌っ、それは嫌です弁慶さん、止めてっ」


身体を離した僕に焦った声で制止の言葉がかかる。

善がりようとは正反対に望美さんはそれをいつも酷く嫌がる。恥ずかしいのだろう、まぁ気持ちは分からないでもないが凌辱するような男がそんな反応を楽しんでいると望美さんはいい加減学習すべきだ。

しかしわざわざ忠告するような事でもない。第一一から十までそつのない反応をされたらむしろ興醒めですからね。


「でもこんなに溢していては畳が濡れてしまうでしょう?畳はあまり安価な物ではないんですよ。染みになったら恥ずかしいでしょう」

「な…、なら床で…」

「ここの床は刺がよく出ていますし、素足の君には余りお薦め出来ませんね」


僕は寛容な態度を装ってゆるりと微笑むと座り込んだ。


「僕が椅子になってあげます。舐められるのがお嫌ならさぁ…、どうぞ?」


僕が彼女の背から退き、拘束が解かれたからかぺたりと腰を抜かす望美さん。

離れられた事による安堵と今自分が求められている事に対する羞恥、それと微かに灯った欲望の火に瞳を潤ませる望美さんに思わずうっとりとする。

…とてもいい表情です。

乱れたままの衣服から覗く綺麗な背中も赤く色付いた彼女は身体を重ねたばかり頃より美しく花開き始めている。神子らしからぬと言ってみればそれまでだが幼いばかりの彼女の夜の顔は意外なほどに魅力的だった。

――こんな彼女を僕以外誰も知らない。

今更ながら彼女の破瓜の相手がこの僕であった事にじわりと支配欲の絡んだ優越感に満たされる。


「…どうしました?」

「あ…あ、の」


彼女が何を躊躇っているか分かっているのに何も知らない顔をする。もじもじと、こうするのは初めてではないのにいつまでも彼女は初なままだった。

いかにも興が削がれたと言う風を装い、ふぅと深くため息を吐く。


「余り、乗り気ではないようですね…。いつも君に無理を強いているばかりでは悪いですし…今日はこれでお開きにしましょうか?」

「えっ」

「今日は休息日でしたが見た所、疲れているみたいですしね。ずっと稽古していたでしょう?先ほど九郎も自室で延びていましたよ」


苦笑いを溢して優しく微笑む。君達は本当に仕方ないですね、と言うとそっと身を寄せて頬に軽く口付けた。

放り出された望美さんは高めた熱も忘れたかのようにぽかんとしている。…全く本当に学習して欲しいものだ。


「僕の事は気にしないで。――他を当たりますから」


そう言うと含んだ表情に何かを感じ取ったのか望美さんは顔色を青くし、部屋を出ていこうと身を起こした僕の足にすがった。


「やだ、待って!待って下さい…っ」

「どうしたんですか?しっかり身体を休めないと駄目ですよ?」

「わ、私、私…」


ゆるりと袴を握った手を払おうとする僕に望美さんの目が泳ぐ。僕が望んでいる答えは一つ。それを彼女も分かっているはずだ。


「さっ、させて下さい…!私…、したいんです。弁慶さんとしたいんです…っ」

「何をです?疲れを押してでもしたい事なんて相当の事でしょうね。僕には皆目検討がつきません」


場に残る淫靡な空気を無視して冷たく突き放す。焦りに再び悲しげに顔が歪み、途方に暮れた表情をする望美さんを暫く見詰めた僕は口角が上がるのを努めて抑え、渋々折れたと言った雰囲気を出した。


「……仕方ありませんね。許してあげます。次はありませんよ」

「っ…、はい…」

「少し萎えました。勃たせて頂けますよね?」


にっこり笑みを浮かべて撫でるかのような強さで後頭部に手を這わすと少しの逡巡の後、今度は何も言わずに望美さんは僕の下肢に顔を寄せた。






鬼畜と言葉責めに重きを置いた結果大変な事になった例。

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