「見ろ、皆っ。今回の売り上げは大したものだぞ!」

「あ…お帰りなさい!九郎さんっ」


寒暖の差が激しく雨量も極めて少ないこの大陸で比較的穏やかな季節、隊商を組んで交易品を運んでいた九郎達が帰ってきた。

遠征帰りらしく泥土に汚れてぼさぼさだったがゲルの中に入ってきた九郎を見るやいなや望美さんは躊躇いなく、ぱっと抱きつく。


「の、望美!離れろっ…」

「えへへ〜、いいじゃないですかっ。久しぶりなんだし」


手に持った今回の売上を掲げたまま石像のように硬直する九郎の胸に頬を寄せ、擦り寄る望美さん。その脇をいつもの事だと景時、リズ先生が何も反応をせずにすり抜けていく。


「いや〜今回は結構良かったね。取引きもすんなりいったしさ、リズ先生に付いて来てもらったのも正解だったかも」

「うむ」

「争い事は起こらないにこした事はありませんからね。基本は話し合いで纏めるべきです…が、やはり威圧感がある方が同席した方が纏まりやすいですから。…ご苦労様です、二人とも」


やれやれと言った具合に座り込む二人に炊いていた湯で茶を入れる。ヤギ乳でもいいがやはりこちらの方が僕らの口に合う。

それに手を伸ばしていると望美さんをくっ付けたままで九郎も腰を落ち着けた。まだ顔が赤い。


「渋るに掛けてはあそこの奴らは天下一品だからな。先生の素晴らしさが黙していても伝わったんだろう」


流石ですと九郎らしく盲信的に頷くとリズ先生もほんの僅かに目を細めた。


「それにしても、だ。やっぱりお前の言う事に間違いはないな、弁慶」


ずず、と喉の焼ける感覚を味わいながら茶を嚥下していると話の矛先が自身に向いて少し苦々しく思う。

留守を預かったもののとても褒められた振る舞いをしていなかった僕には如何なる賛辞も分不相応だ。


「…たまたまです。僕でなくとも少し考えれば思いつく案ですよ。九郎は前々から僕を買被り過ぎです」

「いや。そんな事はないだろう?謙遜なんてらしくないぞ。お前の事は信頼している」

「……。…ありがとうございます。一応元軍師の面目は立っているみたいで安心しました」


満面の笑顔を向ける九郎に内々に秘めた想いに視線を逸らして僕も笑顔を作った。…望美さんは目を伏せ、複雑な顔をしている。

――帰って来なければ良かったのに、なんて。

僕が考えてるなんて疑う事を知らない九郎には想像だにしないだろう。





*****





『あっ…ぅ、ん…んんっ』

『ふふ…声、我慢しなくていいんですよ?人払いはしてありますし――九郎もいないんですから…』


寝静まった夜。暖の火だけが揺れる中で僕達は交じり合っていた。

――不貞。

誘いを掛けたのも言葉巧みに落としたのも、僕だ。

望美さんは九郎が好きだし、彼女達は夫婦だから勿論望美さんは僕を拒んだが…罠に掛けるのは僕の十八番。

…指導者として交易に出る事が多い九郎の留守中に舌先三寸で望美さんを誘惑する事は容易かった。時間など幾らでもあるのだから。

激しさを増す粘着質な水を打つ音に混じって望美さんからも高く鼻に掛かった嬌声が漏れ始める。

その囀りは甘く…欲は瞬く間に膨れ上がり、一時の睦事に夢中になって僕は彼女を突き上げた。


『は…、あん!弁慶、弁慶さっ…』

『…っ』


嬉しい。彼女が僕の名を呼んで僕を見詰めてくれる事が堪らなく。

それは背徳と引き換えにしても代え難い幸福で行為に意味を持たせていた。

彼女が誰を想っていても、僕は望美さんが好きだ。それは変わらないし、変えられない。

だからこうして罪を重ねて甘美な刹那に僕は溺れる。勿論望美さんは九郎の物だし、寝取ろうなんて考えはない。彼女の幸せを崩すつもりはない。

けれど彼女の笑顔が僕の幸せなんて気取るには近くに居過ぎた。


『っ、は…』


落ちる汗が彼女の涙と一緒に混じり合い、頬を伝う。無理を強いているのは重々承知だ。身体にも、心にも。

余りの行為の甘美さに朦朧とする頭で口付けを送る動きで流れるそれを舐め取った。

…苦い、そう感じる。


『好きです…好きなんです…。誰よりも、君が…』

『っふ、っ――っん、ぅ。あ、ああ弁慶さんっ…ごめんなさい、ごめんなさいぃ…!』


痙攣し出した彼女の内部に絶頂が近いのだろうと律動を更に速めるとぎゅうっと締め付け、望美さんが仰け反る。褥代わりにひいた布に益々皺が寄った。

誰への謝罪か。君が謝る必要なんてないのに。

自身を根元まで押し付け、何度もギリギリまで出し入れするとこのまま中に出してしまいたい欲望が首をもたげる。

好きだから、愛してるから、自分の物に。

僕が願ってはいけない望みだ。これ以上――。

荒く呼吸を繰り返す唇を強く、強く自分の物で塞ぐとお互いの嬌声を飲みこんで僕は望美さんの腹に白濁を吐きだした。





*****





「――それよりも。交易のついでに買ってきましたか、服とか」

「ああ!ちゃんと言われた通りに買ってきたぞ。えーと…」

「今皆が積み荷を整理してくれてるはずだよ〜。心配しなくても俺も確認したからばっちりだよ、弁慶」

「私も調べたが…問題ない」

「九郎に任せっきりと言うのはやはり不安ではありますからね。ありがとうございます、二人とも」

「先生まで…!何だ、頼まれ事くらい俺にもできる!」

「ふ…あははっ。いいじゃないですか、九郎さん。間違いがなくって!」


笑い声が響く暖かい空間。汚れた想いは沈め、今はこの温もりが愛おしい。

蝕んでいるのは自分自身だとしても。





oh…望美がビッチ…。

ちょっと調べました、モンゴルについて。遙かの魅力ですよねー掘り下げられるのは。他EDでも深い、深いです…楽しかった。つか、めっちゃ速く書けた。調べた時間を除けば一時間くらいで書けたんじゃないかな?

弁慶が可哀想なシチュエーションははかどる法則。



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