壊れ物を扱うようにふわりと敷物の上に下ろされる。

頼りない態勢から解放された所で慌てて弁慶から距離を取ろうとしたが背中から回った手が肩を掴んでいて望美は動けなかった。

非難の意味を込めて名を呼ぼうとしたが正面に腰を据えた九郎の真剣な眼差しに声に出す事が出来なかった。


「――望美」

「は、はいっ」

「一つ答えて欲しい事がある。いいか?」


パチパチと燃える石炭の音が静寂に響く。弁慶に肩を抱かれながらも姿勢を正し、望美は頷いた。

見据える九郎の瞳には揺らぎはない。


「弁慶が好きか?」


どく、と心臓が跳ねる。

…危惧した通りの質問だった。九郎は自分と弁慶の仲を怪しんでいる。祝言を挙げて夫婦になった望美に他の男が好きかと聞く、その意味は一つしかない。

言葉の中に色んな言葉を含ませてそれに望美も気付いたがあえて掠れた声で笑って見せた。


「な、何言ってるんですか。仲間なんだか当たり前じゃないですか」

「違う。質問の仕方が悪かったか?…仲間としてでなく、男として好きかと聞いているんだ。俺の事を想ってくれているように弁慶も想っているか、とな」

「…っ」


共犯者であるはずの弁慶は何も言わない。

――九郎さんはただ好きかと聞いているんじゃない。弁慶さんともそう言う関係になったかと聞いてるんだ…。


「わた、し。私、私は…」


声が震える。

何て答えればいい?九郎さんがいない間、弁慶さんとも楽しんでました。弁慶さん慣れてるから九郎さんよりも気持ち良かったですよ?…とでも言えと言うのか。言える訳がない。

だからと言って弁慶さんの所為にしたくはない。無理矢理でもなんでもない。私が弁慶さんに抱かれたのは事実なのだから。


「……っ、っ」


泣き上戸でも何でもないはずなのに湧き上がる嫌悪感と罪悪感で涙腺が刺激される。

泣いちゃいけない。ここは私が泣いていい場面ではない。九郎さんを裏切ったのは私。弁慶さんを断り切れなかったのも私なんだから。


「ああ、泣くな」


もはや肯定したのと同じ反応を示す望美に九郎優しく落ちる涙を拭った。


「望美さん。九郎は許してくれましたよ」

「っ、?え…?」

「まぁ、流石に憤りを感じなかったと言えば嘘になるがな。…お前がそんな風に泣くのだけはごめんだから…所謂妥協という奴だ」

「全く…九郎の懐の深さには頭が上がりませんね。同じ立場なら同じ事を出来たかと聞かれると正直微妙です」


苦笑いに自嘲する声が聞こえる。つられて九郎も笑うがそれに曇りはなかった。

修羅場になってもおかしくない場面が急転、和やかな笑いに包まれてすっかり酔いが覚めた望美は潤んだ目を丸くして疑問を口にした。


「あの、それってどう言う…。九郎さん私と離縁するんじゃ…」

「馬鹿言え。お前と別れる訳ないだろう。…こう言う事だ」


頬に添えた手のまま、優しげな口付けが落とされた。
しっとりとした感触。驚き目を見開いたまま硬直していた望美も二、三ついばむように繰り返されると流れを受け入れ瞳を閉じた。

ゆっくり合わせて、一旦離れる。

自然に薄く開いた澄んだ翡翠と深い山吹色の双眼が交わり、求めるように再び深く重なった。

その間弁慶と言えば――美のデールの詰襟を乱して首筋にキスを、舌を這わせていた。しかもそれだけでは飽き足らず、早く帯を緩めている。


「え、んん。ちょ…弁慶さ――」


流石に焦る望美。

お咎めがなかったのは嬉しいが今は九郎が目の前に居て愛を確かめ合ってる真っ最中だ。雰囲気は確かにそう言うものではあるが今脱がされると言う事は必然的にそう言う事になってしまう。


「大丈夫ですよ。気が飛ばないようには加減しますから。…だから君も頑張って下さいね?」





*****





「んっ、ぅん、ふ…」


律動の衝撃を受けながら望美は必死に呼吸をしていた。溺れる水の中で息継ぎをしているのと何ら変わりない。


「はっ…上手いな。弁慶、お前が、教えたのか?」

「っええ。初めだけですが…気持ちいい、でしょう?」


崩れるはずだった日常が歪な形で普通を描いていて、それがとても不思議だった。

俯伏せの状態で望美は座る九郎を銜え、覆いかぶさる弁慶を受けていた。弁慶の言う通り、口淫は何度かやらされたが快感に惑わせながらと言うのは初めてだ。

苦しくて何度か九郎を離す。


「望美さん。鼻で息をして下さい。続けて行わないと九郎が苦しいでしょう?」

「は、ああ、あ。っ無理、無理ですぅ…」


休むなと言う割に弁慶の動きは激しさを増して打ちつける速度は上がっていく。腰を掴み、余裕なく腰を振るのに指示する声だけは冷静だ。

離した手を九郎の太股に置き未だに身に付けたままの藍の服を握り締める。下肢に感じる感覚に眉根を寄せ、俯いたまま喘いでいると頬を掴まれた。

ぐいっと再び口内に苦い味が広がる。


「んっ、んんぅ」

「…優しくしてあげるんじゃなかったんですか?」

「いや…思った以上だ。他の男のものを銜えてる姿ってのは…そそるな」

「ふふっ。まぁ望美さんですから」


男の本音か、華奢な身体を蹂躙しつつ望美を追い込めていく。

最早自分には関知出来ない段階にまで来てしまった今望美に出来るのは息をする事となるべく声を上げない事だけだった。幸いにして前者は生き物として欠く事の出来ない行為であり、後者は九郎のものに塞がれて籠った音しか出す事ができない。

荒い息と濡れた音。それが星降る平原の一角、更に小さなゲル内で密やかに響く。

九郎が自分の動きと一緒に大きくではないが望美の頭も動かして打ち付ける中、言われたと通り苦しいながらも必死に鼻呼吸を行い、早く終わらせようと望美なりに口を窄めて舌を使った。

ぐっと大きくなる牡に顎が痛くなってきた頃、弁慶が腰に添えていた手を外し、背中に口付けを振らせながらも花芽を弄った。


「んっー!んんっ、っ!」

「ああ、熟れてますね…。もう少しですか?」


ぐちゅぐちゅと律動と相違ない速さで前後に動かし、快感を与える。そのままでももう限界に近かった望美は渾身の力でぎゅうっと下肢を絞めると気持ち良さそうな吐息が弁慶からも漏れた。

同時に呼吸を止め、ちゅうっと吸い付くと九郎が短く呻き、ぐっと腰を押し付けてきた。途端に口内が液に満たされる。


「は、あっ…」

「っ、早いですね…九郎。溜まってたんですか?」

「煩い」

「ふふ。ですが僕も、もうっ…」

「ん…あ、あっ!――ああ、」


決して美味しいとは言い難いものを飲み切るとそれを確認したからかぬるりと九郎の牡が引き抜かれ、離れていく。

自由になった上半身を耐えられないとばかりに完全に突っ伏させると繋がれている部分だけを持ち上げている態勢になる。これで好きに動けますねと弁慶は言うと根元まで押し入れ、出し、速度はそのままに揺さぶりを強めた。


「い、やぁ…っ。あ、あああっ!」

「は――はぁっ。望美さんっ…望美さ、ん。っ」


チカチカとする視界に目を瞑ったが暗闇さえも瞬くのを感じ、耐え切れず褥に爪を立てつま先を丸めた。

ぐいっと深く挿れた弁慶は微かに上擦った声を上げ、大きく脈動した。


「あ――な、か…?」


失いかけた意識の中、暖かな奔流を感じ弁慶を見上げた。

…今の今までは弁慶と望美は秘密の関係だった。行為の名残は残さ無い事は勿論、避妊なども徹底していたのだ。容認された今、跡を残すなとは言わないがどくどくと注がれるそれに朧気ながらも望美は問いかけた。

しかしそれには九郎が答える。


「別に問題はないだろう。ここは俺達の国ではないのだし、一夫多妻が当たり前とされている風潮もある。ならば反対でも構うまい。お前は産んでくれるだろう?」


子供を産む、と言う決して簡単ではない事に何も言えないでいると抜かずにそのまま余韻を楽しんでいた弁慶が身を屈め、髪を掻き分けて後ろから首筋に口付けを落とした。


「皆、誰の子でも面倒は見てくれますよ。まあ僕は誰かに殴られるでしょうけどね」

「それくらいは甘んじて受けろ。安いものだろう?」

「…そうですね」


一時の痛みと引き換えに友情を、愛を。

悩ましいため息と共に出ていくものと共に白濁が流れた。





とりあえずお相手は一週間交替で望美が担当週とは違う相手としたくなった時のみ3pだと思います。誰か続きを!続きを!←

ああ楽しかった。何か吹っ切れた´p`話の大筋は頂いたネタ通りになぞったので簡単だったのですが実は複数初めてで…弁慶以外といちゃいちゃさせるともっと嫉妬で苛々するかと思いましたがそれほどでもなかった。よしよし。

途中から偽九郎になったとか伏線回収し切れてない気がするとか気にしない。


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