「今僕が…子供が欲しいと言ったら、君はどうしますか?」


ふと熱い情事の最中に湧いた疑問――僕は望美さんにそう問いかけた。

皆が寝静まった中、いつからか始まった情事は密やかなで…ただ性欲を処理し合うだけの淡泊なもの。

お互いに想いを交わす訳ではない、寂しければ胸を恋しければ唇を貸す関係。…こんな言葉、彼女にとっては迷惑でしかないだろう。

けどどうしようもなく、物思いが形になった瞬間僕は問うてみたくて仕方なくなった。


『弁慶さん…私が嫌いですか?』


あの日突然望美さんが僕の部屋を訪れた時から惰性に続く、この歪な関係。

夜――それも彼女が僕の部屋に来た時のみ日中彼女との間に感じる他人の垣根は取り払われ、触れる事が許された。

最初はただ人肌恋しいのかと…慰めのつもりで抱いていたが――時が経つにつれ、行為が終われば今までの熱い時間が嘘のように去っていく彼女を抱きしめて引き止めたいと思うようになってしまっていた。

行為の最中、何も知らない無垢な神子ではなく、春日望美として僕を見る望美さんにも責任はある。

いつの間にかは分からない。けど僕はそんな眼差しを不思議に思い、気に掛け、愛しく思うようになっていたから…。

彼女を守りたいと思う庇護欲が八葉としてでなく、ただの男として姿を変えている。調和を愛す彼女の優しい心にさえ独占欲を感じるほどに。

そうして日に日に苦しさが募り、役得としか見ていなかったこの関係が今の僕には酷く辛いものとなっていた。

今更好きだとは言えない…。身体を重ね始めてもう指折り数えられないほどの月日が経ってしまった。割り切った関係として続けていたのに今、想いを口にする資格などあるだろうか。

だから僕はそう聞いた。

行為の延長線上の戯れだと――卑怯だとは分かっていても少しでも彼女の気持ちが知りたかったから。

僕の膝に跨り、奥深く銜え込んだ快感が馴染むまでと肩口に顔を埋めていた望美さんは汗が滲む顔を少し上げて至近距離から僕の顔を覗いた。

…直前の前戯も加わって潤んだ瞳が何とも扇情的だ。脈打つ自身に絡み付く彼女を感じて僕も浅く息を吐くが今は快感を得るよりも答えが聞きたかった。


「は…っ、こど、も?」

「ええ。…可愛いと思いませんか?僕と望美さんのやや。一応避妊はしていますが…交わりをしている以上絶対出来ないと言う確証はありません。それなら万が一出来たとしても――」

「私、いらないです」


僕の言葉を遮ってはっきりと望美さんは答える。…息を詰めた。


「確かに子供は可愛いけど赤ちゃんは欲しくないです。この時代では難しいのかも知れないけど本当に万が一があったら私、堕ろします」

「……理由を聞いてもいいですか?」

「想いの通っていない間に出来たらその子が可哀相でしょう?だからですよ」


想いの通っていない…。

はっきりとした望美さんの言葉に柄にもなく傷付いている自分がいた。

彼女の周りにいる男は僕だけじゃない。それでも僕を選んでくれているのは――少しでも好意があるからではないのかと期待していたからだ。

自分が嫌いかと問うた望美さんだからきっと少なからず――と。


「……ん、ですか…」

「え?」

「いいえ…何も。中断してしまってすみません。……続けましょう」


華奢な腰を掴み、振り払うように腰を揺さぶる。すると途端に燻っていた情欲が燃え上がり、じくじくと広がる痛みが微かに和らいだ。

女性にだって性欲はある。

望美さんが僕と身体を交える前に既に経験をしていたのも正直意外だったが、だからこそ抱える欲望を一人では完全に消化出来ない事も知っていたのだろう。

――僕なら適任だ。

ある程度の経験はあるし、口も軽い方ではない。身体の関係を持っただけで所有を口にするつもりも、他人にひけらかすつもりも――以前まではなかった。

末端の兵とも彼女は仲が良いが彼らは彼女をより神聖視している分、対象にはなり得ないだろう。
だから、僕。だから――。


「……君は案外酷い女性ですね…」

「弁慶…、さん?」

「いえ…。っ」


込み上げる想いに突き動かされ、根元まで銜えられる刺激を手放して一端抜いて再び彼女を床に押し倒した。

見下ろし、普段とは違う声色で見下ろす僕に不安そうにする様子に気付かないフリをして少し強引に反転させる。…今は顔を見られたくない。

膝を立たせて再度雄を入れ込んだ。


「んああぁっ」


押し入った瞬間全体をきゅうっと締め付けられたが耐え、そのまま中に忙しなく擦り付けた。

可愛い。愛おしい。

こんなに近くにいて今は彼女の深淵に触れているはずなのに酷く彼女の存在を遠くに感じた。


「っ、はあっ…、どうして…」


優しい君がこんな事を――。

喉の奥で続きを叫び、口には出さなかった。頭では分かっている。あくまでもこれは持ちつ持たれつ。利害の一致での性交渉でしかないのだから。

けれど暗く染まる内心とは裏腹に意中の異性との繋がりに性は喜んでいる。徐々に上がっていく熱と共に急き立て始め、いつもなら彼女の様子を見つつ加減したり、楽しんだりするのだが今日は何故かそんな気になれなくて早々とそちらの声を優先させた。

形の良い臀部に手を掛け、吐き出すべく腰を振る。


「あ、あんっ、弁慶さん、激し…ああッ。や、あううっ…!」

「…はぁっ…、駄目ですよ。んんっ…」


拒んでいる訳ではないのだろうが強過ぎる打ち付けと快感に腰を退こうとする望美さんを引き寄せ、更に奥深くでそれを動かした。


「あぁ…っ。ひ!あっ、あっ、あん、ぅぅ…!」


ぐちゃぐちゃと最早男を受け入れる以外の何ものでもなくなったそこで暫く楽しんでいたが限界の光を見た僕は恍惚に苛まれながら少し迷ったものの己を引き抜いた。


「っ…、っう…」


彼女を求めて隆起するそれを欲望の赴くまま、数回扱くと吐き出された汚らしい白濁が綺麗な背中を汚した。

割と長めの射精に身を震わせながらも小さく吐息を漏らす。くたりと脱力した望美さんの肩の辺りに手を付き、赤と白に染まった肌を見て抱き締めるなら拭わなければいけないななんて考えながら気だるい腕を少し動かし、彼女の横顔に掛かる紫苑の髪を払った。


「……弁慶、さん…」


名前を呼ばれ、視線を顔に向けるが望美さんは規則的に呼吸を漏らすだけ。寝言かと綺麗な横顔はそのまま眺めていたが汗にまみれの肌に浮かぶ涙の痕を新たな雫がつぅとなぞった。

途端に何かが込み上げて苦しい心に駆られて身体が汚れるのも構わずにきつく意識がない彼女を抱き締めた。


「…お休みなさい…」


愛してる、そう伝える資格は卑怯で臆病な僕には許されていない。

僕に望まれているのはこの身体で彼女を慰める事、それだけだ。


「……」


ほとほとと堪えていたものが落ち、また肌を濡らした。


「望美…」





2周目以上の望美→←弱弁慶ですね。

弁慶の事は好きだけど忘れられる快感しか求めてなくて子供が出来たら堕ろすと言うよりリセットする気満々です。初めてじゃないのは…その、将臣辺りでいいんじゃないすか(適当^^)

弁慶さんは滅多な事では泣かないので妙に泣かせたくなります。


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