いつか、感情のままに素直に泣ける君を僕は羨ましく思いますと言った。――けれど言葉に出さない心の内で君の事を冷めた目で流す涙を見ていた。
人は死ぬ。
それが戦場であろうとなかろうといつか生けるもの道は終わる。
天命に導かれて、などと言う運命論で全てを片付けるつもりはない。…ましてや咎人の僕がこの手に掛けた人の光をいつかは途絶える物、なんて言葉で済ます訳にはいかない。
けれど涙は弱さだから。
感情の高ぶりを表に出した所でどうなるものでもない。泣くだけ、泣いた時間だけその人は同じ場所で足踏みをしている事になる。醜態を晒して立ち止まって…何になるのか。
故人を想うなら――そう、何かに嘆き、悲しむなら人は泣くべきではない。
そう、想っていたのに。
「弁慶さん…泣かないで」
優しい手の平が僕の頬に触れる。柔らかくて小さな手。守りたいと思っていたのに彼女の手は酷く擦り切れて血が滲んでいる。
濡れてしまうと顔を背けたがそれでも尚、彼女は僕に触れた。
――心が痛い。罪を背負い、声なく叫ぶ音にはもう慣れたはずなのに。どうしてこうも酷く疼くのか。
空は青く澄み、神気が大気に満ちる。
傍らには割れた鏡の破片。黒龍との戦いで荒れた海の水がここまで上がってきて床板が濡れている。
弱い自分は見せたくない。
そう僕の中の矜持が叫んでいるのに、同時に彼女に全てを委ねてしまいたいと想いは交錯していた。
胸を圧迫されているような錯覚。それに一滴の――甘さ。
僕を包む傷だらけの手に怖々触れると眉尻を下げていた彼女が優しく微笑んでくれた。
それにまたせり上がる切ない疼き。
「お疲れ様…弁慶さん。もう、終わったんですよ…」
言葉にすれば、この涙は止まるだろうか。
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お題に合わせたはずなのに何故か微妙に逸れる罠。