▽弁慶さんの戦闘中の回復ってなんでしょうね?(今更な疑問)

2015/02/01 11:13

――気合い一閃。

どこか彼女の兄弟子を彷彿とさせるような剣さばきを最後に狼によく似た怨霊が甲高く吠えた。今際の際の、と言えば怨嗟の声のようにも思えるが神子の太刀に崩れ、大気に溶け始めたそれは苦悶の表情を消し、どこまでも穏やかだ。

今ここにいた事実も龍脈へと還るのだろうかと首を捻っていた頃が懐かしい。怨霊とはそう言うものだ、死体の処理に人員を裂かなくて良いじゃないかと思うようになったのだから全く、人間の慣れとは恐ろしい。



「怪我はありませんか?」



人との争いとは違い、一の怨霊に対して十の兵をぶつけても勝てるかどうか怪しい未知の存在との邂逅に本来ならいの一番に前線に出ようはずのない立場の二人が応える。

悪友は剣に付いた残滓を拭いながら無愛想にああと短く、同輩は一人は肩の力を抜きながらへらりと笑って見せた。

二人とも何でもない時は口にする癖に無理であればあるほど隠す薬師泣かせな傾向にあるので問い掛けたもののじっとその立ち振舞いを眺める。

いい加減に倒れてからこちらの世話になる態度を改めてもらいたいものだ。

――しかし今回は怨霊の数が少なかった事もあり、本当に大丈夫なようで安堵に息を吐く。

しかし視線を後方に流し、ぎくりとそれを止めた。

今まで誰よりも怨霊に身をぶつけ、時には刃を交えつつ隙を見て皆の士気を煽っていた戦神子が青い顔でふらふら二、三歩揺らめいている。


「のぞ、」

「――うおっ!」


僕が彼女を呼ぶより早く、周囲をうかがっていた九郎の背中に頭から突っ込んだ。不意を突かれたはずだが――。


「望美ちゃん大丈夫!?」


九郎の反応の早さには感謝しつつも九郎に抱き止められたまま、ぐったりとしている彼女に血相を変えた景時も駆け寄る。


「おいっ、…おい!――っ何だ、さっきの奴にやられたのか!?」

「いえ、倒れるほどの外傷は…、――。…ありませんね。呼吸もありますし、心音は些か早いですが…常識の範囲でしょう。しかし確かに顔色は良くありませんし、こちらの呼び掛けにも答えないとなると…麻痺かもしれない。毒でないといいのですが」


軽く診断し、詳しく診る旨を告げると彼女を抱き抱えて支えていた九郎が膝裏にも手を差し入れ、立ち上がった。


「九郎、さっき剣じゃなくて利き腕で攻撃受けてたでしょ?オレ変わろうか?」

「いや、大丈夫だ。それより景時、望美を弁慶に診ている間に怨霊が群れで来ると不味い。遁甲をかけてくれ」

「あ、それもそうだね。御意〜ってね」


景時が銃を構えるとそこから軽い破裂音がし、慣れた感覚に包まれる。まとわり付くようなようなそれは例えるならば靄のような存在でに余り歩き回ると解けてしまうが一ヶ所に留まるならこれ以上のものはない。怨霊だけでなく、敵兵にも有効ならとも思わなくもないが…いや、やはりそれは贅沢なのだろう。

先程までは餌に群がる蟻のようにより集まってきていた怨霊だったが遁甲の術を使った途端、目標を見失ったかのように虚空を見つめ、苦悶の呻きを漏らしている。

やはり彼女のもたらす封印は彼らにとっては幾千の責め苦から解き放たれる唯一の蜘蛛の糸なのだろうか。生前の鎧に包まれた骨とそれにまとわりつく崩れた肉のみの身体が彼らにどれだけの苦悶を与えているのか僕には図るすべがない。


「うっ…、あ゛あ゙」

「あっ、望美ちゃん!無理しないでっ大丈夫!?多分怨霊の攻撃にやられたんだよ。今から弁望に治療してもらうからね、じっと安静にしてて」


九郎の怪我人に対する動きではないと言うほどの勢いのある抱え上げ方に意識を揺さぶられたのか蒼白な顔色のまま、望美さんは身動いだ。例え鍛え上げられた男の腕とは言え、たった二本の支えは藻掻く人間を相手にしては頼り無く、側にいた景時は慌てて望美さんを押さえた。


「望美さん、今中和薬を――」


僕も宥める言葉と治療を行う旨を口にしようと彼女は未だ麻痺が抜けきらない焦点の合わない瞳で僕を射抜いた。

それは確固たる意志の瞳。何かを訴えようと小さく動く唇よりもさ迷っているにも関わらず、強すぎる彼女の碧の瞳が僕の心をきつく鷲掴んだ。


「え…何て?……うん、―――大丈夫…戦えます…?……って、そんな訳ないでしょ!そんなふらふらで!絶対安静だよっ、ねっ、弁慶!」

「……いえ、そうですね。今減らさないと確かにこの辺りの怨霊が凝り固まってしまうかも知れない。今回復術を使います。麻痺が抜けるまでの気休めになるでしょう」

「えええちょっ、嘘でしょ弁慶!?望美ちゃんこんなに立つのもやっとなのにっ!?」


薄く開く望美さんの唇から言葉を拾った景時は笑い混じりに無茶を言う望美さんを諫めてみせたが続く僕の言葉に勢いよく振り向いて目を見開いた。

視界が回っているのか降りる意志を汲んだ九郎から地面に下ろされた望美さんはやや背を曲げ、辛そうに地面を睨んでいる。


「おい、望美。本当に大丈夫なのか」

「……はい」

「これほどまで説得力のない肯定はないな」


蚊の鳴くような返事に苦笑いを返すも九郎に不調で戦場に経つことを咎める色はない。彼も万全でないまま挑もうとすることは多々あるので無理を押してまで立ち向かう気持ちは理解出来るのだろう。そんな命知らずな患者を縛り付けででも休ませるのは僕達薬師の役目でもある。

けれど、けれども……。


「……望美さんは僕達の影に隠れていて下さい。出来るだけ君を庇ってみせますから」


力なく歪に、しかし真っ直ぐと内に秘めたる彼女の決意を果てもなく尊く思い、その白龍の神子としての素質のはっきりとした片鱗に僕は身震いを感じた。



そして敦盛が横笛を吹く、と(※遁甲中)

これは一応お題、人でなしの恋五題(rewrite様)のその一で書きかけてたまのです。テーマは好きになってもいいですか。好きになってもいいですか…?どこにそんな惚れ要素が…?相変わらずお題は不得手です。でも書いちゃうっ(びくんびくry)
弁望さんを人でなしと称するのが凄く好きです。違うんだよ弁望さんは罪の意識から必要悪を演じているだけで本当は繊細で傷付きやすい優しい人なんだよと弁解しつつもド外道行為をさせる機会はないだろうかといつも狙ってやみません。
弁慶さんの静寂の叫び、プライスレス(ド外道)



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