2012/02/05 22:39




「ハッピーバレンタイン!」

そうユノアに言われて今日がバレンタインデーだということを初めて知った。
このところヴェイガンの襲撃が続いてバタバタしていたから気付かなかったんだろう。
そういえば、昨日遅くまで母さんとユノアが台所で何か作業していたなあ、とぼんやり考えた。

「はい、お兄ちゃん!」
「ありがとう、ユノア」

渡されたチョコレートを頬張る。
甘さが口の中に広がった。

「お父さんには渡せないね……。」
「来週は休暇が取れるって言っていたからその時にまた作って渡しましょう?
材料も余ってるし。」
「じゃあ、そろそろ学校行ってくるから。」
「いってらっしゃーい!」















案の定、学校に着くと甘い匂いが漂っていた。
心なしかみんな浮き足立っている。
放課後、わざわざロマリーが部活を訪ねてきてくれた。
頑張ってる俺達四人のために、と袋詰めのクッキーを一人分ずつ作ってきてくれたのだ。
そして、今、用事があるといって先にシャーウィーとマシルが帰ってしまい、ゼハートと二人でそのクッキーを食べているのだけど。




俺は、ロマリーのことが好きなんだと思う、多分。
多分、というのは周りがそうだと言うからで、いや、でも、さっきクッキーを貰えた時はかなり嬉しかった。
MSクラブ全員に、とはいえロマリーの中では比較的親しい部類に自分が入っているんだ、と実感できたから。
だけど、俺は似たような感情をゼハートにも抱く時がある。
例えば授業中に「二人組みを作れ」と指示された時にゼハートの方から「組まないか」と誘われた時とか。
逆にゼハートが他の誰かとペアになるとちょっと不快な気持ちさえする。


青春時代の心は複雑怪奇、そんなことをどこかで聞いた。
俺の気持ちはまさにその言葉通り複雑怪奇。
父さんのことだって、好きだし認めて欲しいと思う一方で、父さんの庇護の下にあるのはなんだか悔しくてそこから抜け出したくて、正反対の気持ちが一緒に存在しているような感覚がする。


そう、そして今も、



ゼハートが、ロマリーの作ったクッキーを、食べている、



この状況を見ているだけで何故かモヤモヤした気持ちが胸の奥に広がっていく。



このモヤモヤの方向は、ロマリー? それともゼハート?




「アセム、アセム!」




「えっ………あっ…何?」
「どうしたんだ?
さっきからボーっとして。」

気が付くと目の前にゼハートが立っていた。
左手にはクッキーを持っている。

「なあ、ゼハート」
「なんだ?」
「それ、欲しい」
「……はあ?
お前だって同じの持って……あっ…!!」

ゼハートの左手を無理やり引っ張ってクッキーに食らいついた。
だけどちっともモヤモヤは収まらない。

「……ったく…」

だけど

「しょうがない奴だなあ、アセムは」

かわりにお前の一つくれよ、そう言って

困ったように、呆れたように笑うそのゼハートの表情は




(―好きだ………)




そう、はっきりと、思ったんだ。











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