2011/05/08 07:29




「私、死んでもいいわ」

そう言って目の前の彼女はにっこりと笑った。

















家を訪れると少年はソファの上で昼寝の真っ最中だった。

「うるさくしないでくださいよ。」
「いつも大声を出すのはフィリアさんの方じゃないですか。」

いつもだったらここで一言叫ばれるのだが、今日は睨むだけ。

「それで、いったい何の用なの、ゼロス?
用事も無しにあなたがここへは来ないでしょう。」
「いつものことですよ、古代竜の少年が魔族に反旗を翻さないかどうかを確認しに。」
「……私がそんなことさせません。」
「おや?魔族側に立ってくれるんですか?」
「違います!この子が世界を滅ぼすようなことにはさせないということです!!」

その時少年が身じろぎしたので彼女は慌てて口を塞いだ。
やっぱり先に声を上げるのはそっちだ。

「まあ……記憶を取り戻さない限りは今のままで大丈夫だろうと思っていますよ、僕も。
ただし、ヴァルガーヴとしての記憶を得た場合、保障はできませんからね。」
「……その時は、そんな時が来たら。」
「……?」






「私、死んでもいいわ。」



僕はぎょっとした。



「償い…ですか。」
「私、生かされてると思ってるんです。
神託では黄金竜は皆滅ぼされるはずだったのに、私は生きている。
生かされた私にできることはこの子の奪われた幸せを取り戻すこと。
もし、この子が前世を思い出して、私の命を望むなら、それでこの子が幸せになれるなら、差し出す覚悟はできている。」




「それに、育ててもらったという恩義で、許したのではなく借りがあるという理由で生かされるのは辛いから……。
それくらいだったら死んだ方がマシです。

死を望むなんて、魔族みたいだけど。」


「…じゃあ僕に殺されてくれますか?」

「何を言っているの!
私が命を賭けられるのはヴァルだけです!
だいたい子供でもないあなたに殺される筋合いありません!」
「それくらいがちょうどいいですよ、あなたには。」
「どういう意味?」

それくらいの威勢が無いなんて、死んでもいいなんてあなたらしくない。



「死にたい人を殺すなんて、つまらないじゃないですか。」



いずれ来る、世界の終わりの日。
その時もきっと僕に敵対する彼女の命が、僕は欲しい。







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