2012/02/17 22:14




「……本当にモビルスーツ馬鹿だな。」
「馬鹿とは酷いじゃないか、せめて好きくらいにしてくれよ。」
「いいや!"馬鹿"だ!!」

そんな会話をしていたのは先週のことだったか。









「ゼハート、帰ろう?」
「俺は残る。
アセムは先に帰ればいい。」
「そういうわけにもいかないだろー……」

このやりとりは一体何回目か、そう思うとため息が出た。
現在、MSクラブの作業場にいるのは俺とゼハートの二人だけ。
下校時間を過ぎてもこれが終わるまでは帰らないと言い張るゼハートにシャーウィーとマシルは呆れて帰ってしまった。
というのも、先週、下校時間を過ぎても部活に明け暮れていたところを見回りの先生に見つかって大目玉を食らったからだ。
その翌日、たまたま用事があるとかで先に帰ったシャーウィーとゼハートが交わしたのが冒頭の会話である。
今日も続けて捕まったら"馬鹿"どころではない。


ゼハートと一緒に過ごすようになって一年が経つが、ゼハートは、気さくさな性格の一方で、頑固でこうと決めたら絶対に譲らないところがある、というのが最近わかった。
それを根性があるとか、真面目とか言うのだろうが、裏目に出ることもあることに当の本人はあまり気付いていない。

「ゼハート、」
「……何だ…?」
「そのプログラム、間違ってる。」
「どこが!?」
「ここから、全部。」
「……えっ…」
「全部、ここから少しずつズレてる。」
「………あ……」
「あと、その顔、凄い隈だぞ。
最近何か忙しいみたいだけど、疲れてる時にプログラミングしても注意力散漫になってイライラするだけさ。
今日はもう帰って明日またやろう、な?」
「……わかった………。」

やっとゼハートが持っていた機器を手放した。

「じゃあ、俺、教室に忘れ物したから取ってくる。
その間にゼハートは帰る用意しなよ。」
「ああ。」







最近のゼハートは忙しそうだ。
家に帰った後に何か色々とやっているらしい。
如何にも寝不足という顔で登校してくることも増えた。
俺はゼハートのことをよく知らない。
いや、トルディアに来る前のことを殆ど知らないんだ。
朝、一緒に登校して、共に授業を受けて、昼食を取り、みんなと部活に励む、一日の大半を俺とゼハートは一緒に過ごしている。
なのに、俺はゼハートの家庭事情も、忙しい理由も、時々何かに悩んでいるその原因も、何も知らない。
頑固で、一度決めたら譲らなくて、そして何でも一人で抱え込む、そんな"馬鹿"なゼハートだから俺は好きになったんだけれど、やっぱり俺をもっと頼って欲しいわけで……。









「ゼハート?」

作業場に戻るとゼハートが座り込んでいた。

「……寝てる…」

恐らく疲れて眠ってしまったんだろう。
起こすのが可哀想だな、と思いながらその顔を眺めた。

「本当に、綺麗な顔してるよな……」

整った目鼻立ち、長いまつげ、そして、柔らかそうな唇。
触れたらどんな感じなんだろう、そう考えていたらいつの間にか体が勝手に動いていた……。














「……ん………アセム……?」
「…えっあっわっゼハート!?」

俺は、今、ゼハートに、何を……!?

「…顔、近いんだが……どうかしたのか?」
「い、いや……ゼハート寝てたから起こさないと…って……」
「…悪いな、アセムの言った通り俺は相当疲れているらしい。
早く帰ろう?」
「…ああ!」


とりあえずゼハートは俺のしたことに気付いていないみたいだった。
まだ、唇に感触が残っている。
これが、ゼハートの………


「アセムー?」
「うん、今行くよ!」




俺はゼハートが好きだ。
その気持ちはまだ誰にも言っていないけれど、日増しに愛しいと思う気持ちは俺の中で大きくなっていく。
いつか、ゼハートが抱え込んでいるものを全て俺に話してくれるくらいに俺を信頼してくれる時が来たら、俺もこの気持ちを打ち明けられるだろうか、なんて考えながら、帰り道を急いだ。








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