ちゃぷん、という水温が立つ。足をプールに突っ込んで暑さを紛らしている私は今学校の横のプールに来ていた。今日は水泳部の部活動が休みの日でここは完全貸し切りとなっていた。
「あー……暇。」
右手に持っていたソフトクリームがこの灼熱地獄に耐えられず溶け始めている。滴り落ちたソフトクリームの雫がポタポタとプールサイドのコンクリートに数滴落ちてしまい白い染みが出来てしまった。
「いけねえなァ、公共物汚染するなんざ」
「……高杉!」
プールサイドには足を踏み入れず、入り口のフェンスに寄り掛かった高杉がそこで薄笑いを浮かべていた。最もこの場に不似合いな人物の登場の驚き、そしてこの間喧嘩したばかりなのでちょっと気まずさを感じ、何も言わないまま黙って足をちゃぷちゃぷさせた
「シカトすんじゃねえよ」
「別にしてないし」
「何してんだ」
私の横に高杉がおもむろに腰を下ろしてそう問いかけてきた。我が校の黒い男子制服のスボンを膝まで捲り高杉も足を水につける。「つめてえな」と一言漏らして「おい聞いてんのかタコ」と私の頭を叩く。私の頭には激痛と怒りが走る。
「いったいなー」
「てめーまだ喧嘩のこと気にしてやがんのか?」
「気にしてないほうがおかしいでしょ」
「生憎だが俺は、お前だけじゃなく他校の奴等とも喧嘩してんだ。いちいち気にしてられるか」
「まだ他校の人とも喧嘩してんの?また停学になっても知らないよ?」
「ふん、構うな」
鼻で笑い飛ばした高杉が足を勢いよく水に突っ込んだのでザパンという音と共に私に水が降りかかった。制服だったので濡れて下着が透けないか凄く心配なのだが今のところまだ大丈夫なようだ。冷笑したままの高杉がそんな私を気にも留めず新たな話題を切り出す
「おめー…この前の祭り、随分と気合いが入ってたじゃねーか」
「ほ、ほっといてよ!」
恥ずかしさで動揺したことを悟られたくなくて隠すように大声を張り上げてしまった。高杉が喉を鳴らして楽しそうに笑っている。私はそれが気に食わない。
「あんなカタブツのどこが良いんだ」
「高杉よりも5センチ背が高いし、委員会に入ってるし、ちゃんとしてるし」
少々、というよりだいぶ皮肉を込めて言ってやった。私はそのつもりだったが高杉本人には全然効いてないようで薄笑いを崩さずに続ける
「まァ、おめーが誰と付き合おうが興味ねぇんだけどな」
「じゃ言わせんなよ!」
「退屈だからおめーのただれた恋愛事情でも抉ってやろうと思っただけだ」
「おいコラ、誰の恋愛がただれてるって?」
「退屈だ、なんか話せや」
高杉がこんなにもマイペースな人間だとは思わなかった。私はため息混じりに溶けたアイスを渡した
「あげる、暇ならこれでも食べてなよ」
「俺に押し付けんな、てめーで責任持って食え」
「遠慮しなくていいって、あげるってば」
「要らねえ」
「コーラとか牛乳ばっか飲んでないでたまにはソフトクリームも食べな!」
「要らねーって言ってんだよ」
「のわっ!」
気づけば私は高杉にドンと押され、胴体は宙に浮かび、反動で手から離れたソフトクリームも宙を舞い…。バシャンと、水に巨大な石が落ちてきたように大きな音をあげて私はプールにダイブしていた。もちろん制服のまま。今度は下着が透けるどころの騒ぎではなさそうだ。髪から水が次々滴り落ちるがまだ今の状況が理解出来なくて私はプールに立ったまま、鎖骨辺りまで水に浸かりながら状況整理をしていた。
だけど私がパニックになるのも無理のない話で、
「おい、どうしてくれんだ、ああ?」
高杉も制服のままプールに浸かっていた。どうやら私が水に落ちる寸前、高杉を引っ張り巻き沿いにしてしまったらしい。高杉の口は笑ってるのに目は殺気に満ちている。うわぁやってしまった。
「たっ高杉が最初に私を押したからじゃん!」
「元はと言えば、てめーがしつこいからだろうが」
「高杉が退屈、退屈うるさいからだよ!」
「うぜー」
高杉がプールから上がり、制服に染み込んだ水を搾る。私も上がろうとしたが、ワイシャツがびしょ濡れなのでこのままでは下着が透け透けだ。あーもう最悪と呟きを溢し、何か方法を考えていると
「お前ら何してんだ!」
という怒声がプール内に響き渡り、風紀委員長が姿を現した。
「あ!ゴリラだ!!!」
「そうだ俺は風紀委員長のゴ…近藤だ!」
すると近藤に続いて幹部の総悟まで登場してしまった。高杉はその場で私に「お前のせいだ」と言わんばかりにメンチを切っている。
「とりあえず二人とも風紀委員室にご同行願う。話はそれからだ。総悟、名字さんを頼む」
「へいへい」
高杉と私は、タイミング悪く居合わせた風紀委員に連行されていった。
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