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「なに、今日私は厄日なの?」

そう思った。高杉には会うし、高杉に馬鹿にされるし、高杉のせいで風紀委員に怒られるし。

反省文を一行でまとめ適当に終わらせたあと被服室を出て教室にジャージを戻しに来た。夏だからか、少しだけ干しとけば日光の温かさで、びしょびしょだった制服もすぐに乾いた。乾くまで来ていたジャージをたたんでロッカーにしまう。校庭には高杉が来島や河上にチヤホヤされながら呑気に歩いているところが見えた。ロッカーをパタリと閉めて帰ろうと横を向いた途端、

「こんなとこで何してんだ」
「ぎゃー!!!」

急に土方くんが真横に現れ驚いた。というか元からいたけどロッカーのドアの影になってて分からなかった。そんなことはどうでもよくて今日も土方くんはカッコいい。ズボンのポケットに手を突っ込み、暑いからかボタンを2つ開けたYシャツからは鎖骨が見える

「えっと、ジャージを戻しに来たの」
「ジャージ?」

片眉をあげ、怪訝そうな表情で土方くんが聞き返した。理由を聞かれたらヤバい。さっき風紀委員に叱られたことは出来れば言いたくないのでスルーすることにした。「土方くんはどうしたの」と聞くと「お前が迎えに来いって言ったんだろ」と言われた

「え?」
「は?なんだお前」

土方くんが徐に携帯をズボンのポケットから取り出してメールを私に見せた。「迎えに来てよ」というメールが私のアドレスから届いている。間違えた。宛先を間違えたのだ。さっき反省文を書いていたときに銀時に送ったつもりのメールがなんと土方くん宛に送られていた。銀時宛だったから絵文字も何も付けずにぶっきらぼうな文章で。土方くん宛だったらこんな文は送らないし、ハートの絵文字も付けるのに!

「間違いだろうとは思ったけどな」
「ご、ごめん!」
「別に謝るこたァねえよ。俺も学校に来る用事があったし、ついでだ」
「用事?」
「教科書」

「ああ、教科書ね」と呟いた私。土方くんが自分のロッカーを開け数学と社会の教科書を取った。その時、ひらりとプリントが落ちて私の足元に落ちた。「進路ガイダンス」と書かれたプリントを拾い土方くんに渡す。渡す間際にチラリとみたそのプリントには進学、就職のどちらかを選択する欄があって土方くんは進学に丸印をつけていたようだった。それを見て私は土方くんとの距離を若干感じる。私はまだ進学とか就職とか考えてなくて、でも土方くんは私と違ってちゃんと進学するための準備をしてるんだね。

「よし、帰るか」と2冊の教科書を持った土方くんが教室の出口に向かって歩き出す。なかなか後に付いて歩かない私に「置いてくぞ」と言った。

「あ、うん、帰ろう」
「どうした」
「えー、考え事」
「名前にしては珍しいな」
「どう言うことー」
「普段ボーっとしてるだろ?」
「そんなことないよ」
「本当か?」

あんまり信じてないように土方くんが薄く笑った。「超本当」と横を歩く私が言うと「ちゃんとした日本語を喋れ」とつっこまれた。上靴をしまって外靴に履き替え校庭には出るとまたモワっとした熱気が身体を包む。

「何考えてたんだよ」と土方くんが聞いてきたので本当のことを言うか迷った。そのとき校舎から「土方先輩さようならー!」という多分風紀委員の女の子の声がした。土方くんが振り向いて無表情のまま手を上げる。遠くの校舎では2、3人の女子がキャーキャー言っていた。相変わらず土方くんはモテる。総悟が見せてくれたバレンタインの時の写真でも土方くんの周りには女子ばかりだったし。

「で、何考えてたんだ?」
「んーっと、忘れた」

本当に忘れたんじゃないけど、言えないなと思った。未来を見ている土方くんとずっと止まったままの私のことを考えていたことなんて話したところで解決しないし、つまらないし、別に言ったって誰得の話だ。

「ま、いいけどな」

そう言った土方くんが私の頭を軽く撫でた。無意識のうちに私は俯いていたらしい、私が落ち込んでいると思ったのかな。土方くんは優しい。道端で猫が一匹、顔を前足で擦って洗っていた。それを一緒にみていた土方くんが快晴の空を見上げ呟いた

「もうすぐ雨が降るのか」







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