毒果



午後2時、銀時宅。向かえのソファーで銀時が幸せそうに生クリーム付きの果物たちを頬張る。学校は2人で早退してきた。午後の授業は保健と日本史。どちらの授業を受けてなくてもどうせノートは取らないし多少休んでもなんら支障はない。だから帰り支度をして教室を出た銀時に私も付いてきた。

銀時は私の彼氏じゃない。私も銀時の彼女じゃない。銀時には彼女が居て、私には彼氏が居る。普通の彼氏ならば私が銀時に会っている時点で妬かれるんだろうな、そう思いながら毎回会う度に銀時に抱かれているのであり、銀時も同じ立場で、お互いの恋人とは上辺だけの付き合いだった。別に彼氏とは別れようと思わない。これでも好きだから。優しいし温厚だし賢いし。ただ私が銀時とこういう仲だと勘づかない点では頭が悪いけど。銀時も私もお互いの恋人の至らない点をお互い求めて溝を埋めようとしていただけ。

普通じゃないな、と自嘲染みた笑みを溢した私に銀時が「なァ聞いてんのか」と少々苛立ったように言う。


「え?」
「え、じゃなくて。これ、食っていいよ」


そう言って私の前に差し出したボウルの中にはまだまだ沢山、苺やサクランボなどの果物が入っていた。


「生クリームが無くなったからもう要らねェ」


はぁぁーと不満げにソファーに横たわり銀時が目を閉じた。果物と生クリームの配分をミスったらしい。不器用な銀時にはよくある事。その日常的な光景をちらっと眺めてから私はボウルの中から苺を摘まんだ。普通の苺より大きくて赤くて甘そうだ。


「ん…甘い」


苺の先を少しだけかじり呟いた。銀時がゆっくりと目を開けて私を見る。気にせず食べ進めていくと、銀時が上半身を起こしソファーから身を乗り出すように食いついて無言でじーっと私を見ていた。銀時の息を飲む音がする


「なに?」
「お前、…無意識?」
「は、」
「無意識でそんな食い方してんの?」
「え、なになになに」


苺の先を舐めて転がしていると「えっろいな…」と銀時が目を細めた。そしてこちらに向かって歩いてきては、私の隣に座り、ボウルを奪ってきた


「生クリーム付けなくても充分美味しいよ、銀時も食べたくなったんでしょ」
「食わしたくなったんだよ」
「えーなにそれ」


ほら食えよと銀時が苺を私の口ではなく、頭上に揺らしてきた。私が口を開けて苺を眺めていると「だからそれがエロいんだって」と銀時が口角を上げた。次に銀時が私の口内へ果物を何個も詰め込んでくる。


「吐き出したり手で取ったりしたらダメな」


完璧に銀時のS心が覚醒してしまったようだ。いくつか口に入ったところで噛めなくなって飲み込めなくなって、苺やサクランボの薄赤い汁と唾液が混ざって、閉じられない口の端から流れ、喉や首を伝い服の中へと流れていった


「名前…お前、超可愛い」


飲み込めず吐きそうになり、涙が滲んできた。苦痛で眉間に皺が寄った私が銀時に助けを求めると満足げに笑んだ銀時が私の口内から1つ大きな苺を取り出して、自分の口に入れ、食べた。1つ分スペースが開いた私の口はだいぶ楽になりたくさんの苺を噛み締めて飲み込むことができ、荒い息を交えながら唾液を拭っていると急に押し倒された。


「銀時…殺す気ですか」
「殺す気なんて更々ねェから安心しな」
「ドSほんと嫌い…」
「殺すわけねェじゃんよォ、こんな可愛いセフレ」
「んぅ…!」


銀時の唇が私の唇に押し付けてきた。ボウルが派手な音を立てて床に落ちる。ああ、果物も今ごろ床に散らばってるんだろうな。銀時が襲ってくる時はいつも私に近付いてさっきみたいに攻撃を仕掛けてくる時だった。だから逃げることもできた。拒めた筈なのに逃げない私はもう末期。何も知らない優しい恋人を裏切り、浸るこの快楽からもう逃れることは許されないのだ。


「銀時…普通じゃないよ、こんなの」
「初め、普通がイヤだって言ったの名前じゃん」


私の両腕を握り締める力が一層強くなった気がした。その途端に私は自分の判断力を喪う。溺れて良い、溺れれば良い。銀時の瞳に写る私がそう言っているように、もうこれは逃げようとすればするほど深みに嵌まるのみ。首筋に吸い付いて舌でちろちろと舐めたあと、耳元で薄く吐息を吐くと小さく笑い銀時が囁く


「もう後戻りは出来ねーんだよ、お互いに、さ」


一度起き上がり私を上から嘲笑した銀時、その足がソファーの下の苺を踏み潰し、ぐちゃりという音がした





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20111203 02:54


こやつら…普通の神経じゃないな
って感じの話を書いてみたかった

愛に溺れたい今日この頃…。



RENA - AYASAKI







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